いまどき、東京で10年続く店だって頭が下がるのに、それどころか歴史を重ね続けること100年以上。長く受け継がれ、愛され続ける老舗には、味そのもの以上に、“語り伝えたい”味があります。寿司、洋食、バー、和菓子に惣菜、定食か…
画像ギャラリーいまどき、東京で10年続く店だって頭が下がるのに、それどころか歴史を重ね続けること100年以上。長く受け継がれ、愛され続ける老舗には、味そのもの以上に、“語り伝えたい”味があります。寿司、洋食、バー、和菓子に惣菜、定食から駄菓子まで、今に継がれる味、そして新たな時代と共に生きていく味を、たっぷりご披露いたします。連載「100年超えの老舗の味」の今回は、東京・本郷『食堂 もり川』の心も体も満たされる心遣いいっぱいの定食をご紹介!
明治34(1901)年創業、東大本郷キャンパス近くで営業
「今のお客さんは、学生当時から40年ほぼ毎日、週8くらい来てくれてるんですよ」 気さくに声を交わしたあと、そう教えてくれたのは、4代目主人、松川大太さんだ。「東大生と共に明治から」、看板にそう書かれた『食堂もり川』は、創業が明治34年。東京大学本郷キャンパスのすぐ近く、今年で122年になる定食屋だ。
2階の入り口に続く階段は、営業時間中、列が途絶えることがない。最初にレジで目の前にずらりと並ぶメニューから選ぶシステム。本日の日替わり、焼魚、煮魚、おすすめとあって、その左にも30種類ほどの定食が。種類の多さもさることながら、食べればわかる、うれしいのはどの定食にも込められた「どうやって喜ばせてあげようか」という愛情だ。
まずはボリューム。「味もそうだけど量でも満足を」と、たとえば日替わりなら肉と魚、両方のおかずがしっかりつく。ご飯も普通盛りで300g。しっかりおダシが取られた味噌汁が旨いのだが、これと梅干しはおかわり無料だ。そして素材を吟味してていねいに手作りされている。
普通の2個分!「もり川特製メンチカツ」
たとえば人気の「もり川特製メンチカツ」。優に普通の2個分はあろうかというサイズで中には牛肉がみっしり。注文が入ってから揚げる熱々をざくりと割って頬張ると、旨みがじゅわ〜っと。もともとはいい牛肉が安く買えたときに、日替わりとあまり値段差がつかないようにして出したら、「毎日食べに来る人がいてやめられなくなった」そうだ。
もり川特製メンチカツ定食(ねぎとろ付き) 1180円
そもそも松川さんは小さい頃から料理好き。小学生のときから料理番組を見て、店に降りれば材料があるから作っていた。そして「早くキャベツの千切りをきれいに切れるようになりたい」などと思っていたそうだ。「若いときは、忙し過ぎると早く遊びに行きたいと思ってましたけどね」なんて照れつつも、調理場に立つ姿からは、ていねいな仕事でお客さんを笑顔にしたいという気持ちがまっすぐ伝わってくるのだ。
「僕の身体の7割はもり川さんでできている」と話す客
人気と言えば、『もり川』は魚の定食も多く、おいしい。長く付き合いのある豊洲の魚屋は、寿司屋などにも卸している店で、その日のいいものを阿吽の呼吸で選んでメニューを工夫する。ぜひ一度食べたいのは「お刺身盛り合わせ定食」。この日は本マグロをはじめ、〆サバ、鯛、ズワイカニ……、と最低でも5〜6種はのる。「切り身が大きいから、食べた気になる」というのはお客さんの声だ。
お刺身盛合せ定食 1250円
そして定食にはちゃんと手のかけられた小鉢が付くのも特徴だ。きんぴらや卵焼き、お浸し、野菜の炊き合わせ、等々。これは「父から、量や味はもちろん、栄養バランスをと言われていて」という心遣いでもあるのだ。「若い人は自分でなかなか食べないよね。でもうちに来ると強制的についてくるので」と。「『僕の身体の7割はもり川さんでできている』なんて言ってくれる人もいるんだよね」とも。そう言って笑う松川さんの顔は実にうれしそうだ。
[住所]東京都文京区本郷5-30-16
[電話]03-3811-1819
[営業時間]11時~14時、17時~20時半(土~20時15分)
[休日]日・祝
[交通]地下鉄丸ノ内線本郷三丁目駅から徒歩10分程度
撮影/西崎進也、取材/池田一郎
※2023年5月号発売時点の情報です。
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