下北半島へ到着が……風ちゃんからまさかのお願い
愛車は青森県八戸の先、下田百石ICでようやく高速を降りた。あとは下道で三沢を通り越して、いよいよ下北半島だ。
その時「風ちゃん」が突然喋り始めた。
「親方〜ん、実はお願いがあるんでやんすよ〜ぉ」
「おいおい、いつ起きたんだい??」
「さっきから起きてやすよ」
「えっ、本当に。『風ちゃん』目を開けながら眠るから、起きてるんだか寝てるんだか、わからなかったよ」
「さすがカメラマンよく観察していますね、この技は大師匠のところで⻑い話を聞くときの秘伝中の秘伝の技でやんすからね。あまり人には、話さないようにしてつかわさいよ」
「いやいや、そんなことではなくて、う〜む」
「何を御託を並べているんだい、ズバッと言ってみなよズバッと」
「ズバッとね〜ぇ、ズバッとね〜ぇ」
「うるさいやつだね、こう見えても、こっちは江戸っ子なんだよ! ズバッときなって」
「それじゃ言わせてもらいますけど、ちょいと寄り道をお願いできないでやんすか?」
「えっ、トイレ?」
「いえ、恐山でやんす」
「……………。何だ〜ぁ、恐山だと〜、驚いたね〜! 久しぶりにマジマジくん驚いたね〜。いやぁ、恐れ入りました。するっていと何かい、これから日本三代霊山のひとつである恐山菩提寺にお参りしにいこうってのかい。突然すぎて心の準備ができないよ! 困ったね〜。恐山、聞いただけでも怖いイメージがするね〜」
「親方、霊場(れいじょう)てえのは、神仏の霊験あらたかな神聖な場所の意味でありんす。清い心で邪なことを考えなければご利益があるかもしれませんよ」
「どの口が言うのか???? こう言っちゃ何だが噺家って言ってるけどさぁ〜、ほとんど詐欺師の一歩前みたいな『風ちゃん』とよ、食い意地が張っていて死後はきっと飢餓地獄に行くにちがいないカメラマンの『俺が』だよ、最も近づいちゃいけない場所なんじゃないのかい恐山って?
しかも、あなたのそのかっこを見てみなよ、上から下まで真っ赤なブレザー!! そんなのありかいな」
「親方……」
「風ちゃん」は詐欺師の見本みたいな真摯な顔つきで俺に言った。
「親方、人間は見かけじゃありませんよ」
「むっ……….確かに」
「負けたよ。負けましたよ、その通りだよ。人間みかけじゃないよな、特に俺たちはな! そんじゃ行こや! 恐山に。その代わり途中で、ぜって〜邪なこと考えんなよな」と俺は言い放ち、恐山菩提寺の方向に車の向きを変えたのだった。
取材・写真/鵜澤昭彦