昭和が残る都内の大衆酒場5選 今も変わらぬ人情、ふれあい、懐かしの味

『たつや 駅前店(1階)』 @恵比寿 店発祥の黒ホッピーと「やきとり」で一杯 今や酒場でお馴染みの黒ホッピーはこの店が発祥とされる。というのも初代がホッピーをギネスで割って出していたアイディアを元に開発された商品だから。…

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昭和から愛される大衆酒場にはどこか憧れにも似た趣と郷愁があるもの。昔懐かしい味、人情、常連客との触れ合い……最先端の店とは真逆かもしれないけれど、心がぽおっと温かくなる、おいしい出会いを探しに出掛けませんか。

『だるま』 @門前仲町

亡き父の店を姉妹で守る門仲の人気酒場

「お帰り~」「魚食べる?半分の量にしようか」「今日もお疲れ様。あ、疲れるほど仕事してないか、あはは」……なんて常連客とやり取りしながら明るい笑顔を振りまく店主姉妹は我ら飲んべえの女神か。名酒場には各々“色”のようなものがあると思うのだが、華やかで親しみのある「だるま」独特の色を作るのは間違いないなくこのふたり。

『だるま』カウンターとテーブル席がある店は新旧の客で賑わう。料理を弁当にして持って帰る常連さんもいるとか

昭和46年に父親が始めた店を父亡き後に継いで約15年。「私達も子育て中で、閉めようと思う気持ちもありました。でも当時の従業員や常連さんのためにも続けようと」。先代の頃、バイトの学生が注文時に言い始めた「酎ハイ、いっぱーつ」という掛け声は今も健在、店は変わらず連日鈴なり状態だ。

姉の理さんは主にドリンク担当、妹の真さんは炒め物など料理担当。母のレシピのつくね焼など定番の他、すき焼き風の肉豆腐など真さんの味も加わったメニューはどれも家庭的でやさしい味わい。毎日通う客がいるのもわかるなぁ。

『だるま』

[住所]東京都江東区門前仲町2-7-3
[電話]03-3643-4489
[営業時間]16時半~22時(20時40分LO)
[休日]日・月
[交通]都営大江戸線ほか門前仲町駅5番出口などから徒歩3分

『NAKANO ブリック』 @中野

雰囲気をそのままに地元の名物酒場が再出発

老舗が次々と消えゆく時代、中野の名物酒場が昨年11月に再び時を刻み始めた。昭和の洋酒ブームを築いたいわゆるトリスバーとして昭和39年に創業。コロナ禍等の事情で閉店を余儀なくされたが、2年の沈黙を経て復活したのだ。前店主の思いを受け継ぎ再開させたのが、自身も代々木上原の老舗酒場の2代目である中島さん。

『NAKANO ブリック』昔のままのバーカウンター

カウンターも椅子も当時のまま、昔の面影を大事に残している。トリスハイボール350円、つまみ220円~という安さの心意気も受け継ぐのはうれしい限り。一方「店を維持するには幅広い世代に来てほしい」と喫茶営業も始め、ナポリタンなど新たな名物も考案した。いわば中野のシンボル酒場第2章。次代へ続く。

『NAKANO ブリック』

[住所]東京都中野区中野5-61-3
[電話]03-5942-6685
[営業時間]12時~23時(日・祝は~22時半・カフェタイムは基本16時まで ※酒類は終日可)
[休日]不定休
[交通]JR中央線ほか中野駅北口から徒歩2分

『北畔』 @上野

時が止まったかのような昭和の文化遺産的な店

いぶし銀の魅力漂う佇まいは昭和の大俳優の如き趣か。料理研究家の阿部なをさんが故郷青森の料理屋を始めたのは高度経済成長期の真っただ中、昭和34年のこと。北の玄関口といわれた上野には地元の味を出す店はまだなかったという。当然、故郷を想う客であふれた。現在は長男で陶芸家の和唐さんの妻かよ子さんが切り盛り。

ゆかり揚げ 930円、酒の盆・みちのく小鉢6種 1750円

『北畔』(奥)ゆかり揚げ 930円、(手前)酒の盆・みちのく小鉢6種 1750円 煮浸しや切り込みなど酒の盆はアテに最高。創業から続くゆかり揚げはエビ真丈に大葉を巻いて揚げたもの

東北の旬の味覚をはじめ、体にやさしい素材を使った料理は滋養あふれる美味ばかりだ。酒飲みの健康を気遣って酒肴は野菜を多めにするなど「余計なおせっかいを焼いてます」と笑う。名だたる文化人も通っていたそうで、彼らが酔って描いた壁画や書もすぐそこに。そう、ここは店そのものが昭和遺産なのである。

『北畔』

[住所]東京都台東区上野6-7-10
[電話]03-3831-8759
[営業時間]17時~22時半(21時半LO)
[休日]日・祝・月は月2回不定休
[交通]JR山手線ほか上野駅広小路口から徒歩2分

『たつや 駅前店(1階)』 @恵比寿

店発祥の黒ホッピーと「やきとり」で一杯

今や酒場でお馴染みの黒ホッピーはこの店が発祥とされる。というのも初代がホッピーをギネスで割って出していたアイディアを元に開発された商品だから。焼酎、ホッピー、ジョッキをキンキンに冷やして氷ナシで提供する“3冷”は「ホッピービバレッジ」の当時の社長の勧めで始めたとかで、その時に贈呈されたジョッキ専用冷蔵庫は歴史を繋いで現在2代目。

黒ホッピー 480円、菜の花にしん 400円、やきとりお徳用盛り合わせ(5本) 850円

『たつや 駅前店(1階)』(左奥)黒ホッピー 480円、(右奥)菜の花にしん 400円、(手前)やきとりお徳用盛り合わせ(5本) 850円 写真の「やきとり」は豚のかしら、しろ、たんなど。どれも新鮮さがわかる味わい。濃厚なタレは継ぎ足しで守る。塩も選べる

そんな伝統の1杯と最高の相性を発揮するのはやっぱり豚モツの串焼き「やきとり」だろう。毎日芝浦から仕入れるモツは鮮度抜群。同じく名物の「がつ刺し」や「もつ煮どうふ」も一緒に味わえば酒が進んで仕方ない。ちなみに92歳の初代は引退後も時々店に飲みに来るそう。

『たつや 駅前店(1階)』

[住所]東京都渋谷区恵比寿南1-8-1
[電話]03-3710-7375(1階)
[営業時間]8時~23時 ※金・土は~翌4時、日・祝は~22時
[休日]不定休
[交通]JR山手線ほか恵比寿駅西口から徒歩2分

『大衆酒場 富士川』 @大森

気取りない町酒場は安くてお得なメニューが豊富

大森駅近の商店街を歩いていると目を引く「大衆酒場」の大看板。身も心も吸い寄せられるように暖簾をくぐれば提灯が連なるシブいカウンター。“ザ”を連呼したくなる昭和の風情は狙っても作れないんじゃないかな。創業55年余り、重ねた年月の深みがある。グッと引き込まれるのは雰囲気だけじゃない。

生本マグロ刺身盛合せ(赤身・中とろ・とろ) 1298円、くじら刺身(ミンク) 803円

『大衆酒場 富士川』(奥)生本マグロ刺身盛合せ(赤身・中とろ・とろ) 1298円、(手前)くじら刺身(ミンク) 803円

100種以上の料理は大田市場から仕入れる旬の魚から定番の煮込み、銘柄豚のカツまで安くて量もたっぷり。中でも高知産の生本マグロ刺身は必食だ。旨みとろけるトロや赤身など上質な味で一献やれば少々の疲れも吹き飛ぶはず。14時からの営業もうれしいねえ。おまけに17時までサワー類150円だとぉ?酒飲みのハートを射貫く。

『大衆酒場 富士川』

[住所]東京都大田区大森北1-9-8
[電話]03-3765-4957
[営業時間]14時~22時(祝は~21時)
[休日]日
[交通]JR京浜東北線大森駅東口から徒歩4分

撮影/鵜澤昭彦(だるま)、西崎進也(ブリック、北畔、たつや)、橋本真美(富士川)、取材/肥田木奈々

2023年10月号

※2023年10月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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