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「昴」大好きな石川啄木のことが心の底に

極私的谷村新司3曲は名曲中の名曲「昴」だ。1980年4月にソロ2枚目のシングルとしてリリースされた。日本のみならず、中国を始めとしたアジアでも大ヒットした。「昴」も孤独をテーマにした曲だ。歌い出しの部分には石川啄木の歌集『悲しき玩具」の冒頭の二首にインスパイアされたという説がある。

“呼吸(いき)すれば、胸の中(うち)に鳴る音あり。凩(こがらし)よりもさびしきその音!”というのが啄木の原首だ。

これは確かに「昴」の2番の歌詞と似ている。実際に谷村新司にそのことを訊ねたことがある。1990年代中期のことだ。

“石川啄木は大好きなので、どこか心の底に残っていたのは事実です。サイモン&ガーファンクルの「ボクサー」とアリスの「チャンピオン」、そんな関係に近いかも知れないです”と教えてくれた。

「昴」は「チャンピオン」、「いい日旅立ち」より、もっと孤独な曲かも知れない。その孤独について谷村新司と語ったことがある。

アリスや谷村新司などの作品の数々

“人間は誰でも孤独なんです。ぼくはそう思ってます。孤独だからこそ、他者との関係が大切になる。孤独だからこそ、他者に優しくなれる。現代の人は孤独は淋しいだけみたいなイメージがあるけど、孤独だから他者と仲良くし、それで社会が成立しているんじゃないかな”

谷村新司50歳の時の言葉だ。きっと天国でも孤独に曲を作り、陶芸をし、テニスの壁打ちをしているだろう。その一方で彼より先に逝ってしまった人たちとも孤独ゆえの優しさで接していると思う。また昭和の星がひとつ、 地上から消えた。

「アリス」のファーストアルバム「アリスI」(1972年)と、アリスの前に谷村新司がリーダーを務めたグループ「ロック・キャンディーズ」のファースト・アンド・ラストアルバム『讃美歌』(1971年)

岩田由記夫
1950年、東京生まれ。音楽評論家、オーディオライター、プロデューサー。70年代半ばから講談社の雑誌などで活躍。長く、オーディオ・音楽誌を中心に執筆活動を続け、取材した国内外のアーティストは2000人以上。マドンナ、スティング、キース・リチャーズ、リンゴ・スター、ロバート・プラント、大滝詠一、忌野清志郎、桑田佳祐、山下達郎、竹内まりや、細野晴臣……と、音楽史に名を刻む多くのレジェンドたちと会ってきた。FMラジオの構成や選曲も手掛け、パーソナリティーも担当。プロデューサーとして携わったレコードやCDも数多い。著書に『ぼくが出会った素晴らしきミュージシャンたち』など。 電子書籍『ROCK絶対名曲秘話』を刊行中。東京・大岡山のライブハウス「Goodstock Tokyo(グッドストックトーキョー)」で、貴重なアナログ・レコードをLINN(リン)の約400万円のプレーヤーなどハイエンドのオーディオシステムで聴く『レコードの達人』を偶数月に開催中。最新刊は『岩田由記夫のRock & Pop オーディオ入門 音楽とオーディオの新発見(ONTOMO MOOK)』(音楽之友社・1980円)。

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