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立ち食いなのに、じゃない 立ち食いだからこその世界

ひと口に「蕎麦」と言っても、本格的な手打ち蕎麦と立ち食い蕎麦とは別の食べ物。その麺は、一般的には蕎麦粉の配合比率が3割〜4割とも言われ、実はうどんに近いものも少なくない

ツユも繊細な風味よりも、強いダシと醤油の味がガツン来るインパクト重視のものが多い。かと言って、それがダメという訳では決してない。むしろ、そこがいいんだよ!と声を大にして言いたいのです。

蕎麦前でしっぽり一杯やって、〆に打ち立ての蕎麦を手繰る、なんて時間はこの上ない贅沢。一方、立ち食い蕎麦屋に飛び込んで、ちょいモソッとしたやわらかめの茹で麺をハフハフやって、ものの3分でご馳走様!なんてのもまた至福の時だ。

スポーツ観戦で例えるなら、手打ち蕎麦屋でしっぱりが手に汗握るオリンピック。立ち食い蕎麦が笑って観られる芸能人水泳大会のようなもの。年がバレる古さだが、とにかく立ち食い蕎麦には気軽な楽しさがあるのだ。

麺のクオリティをウリにしているチェーン店は話が別だが、立ち食い蕎麦の個人店ではかけそばやざるなど、麺だけを味わう人は極端に少ない。きつねや肉南蛮のようないわゆるタネ物か、天ぷらなどのトッピングを加えて味わうのが一般的だ。

『一○そば』巨大なとり天150円の他、ゲソと鶏肉をボールにしたGTO70円、季節野菜のかき揚げも楽しみ

券売機ではない店によっては、入店後即座に「蕎麦ですか?」と聞かれ、「あったかい蕎麦で」と答えると、店員は茹で麺を温めつつ、トッピングの二の句を待っている。何がしかがのって蕎麦はようやく独り立ちするのである。

バターとマスタードを塗った食パンを2枚合わせただけではサンドイッチとは呼べない。何んらかの具材を挟んだ途端に、サンドイッチ一丁あがり!となるのと同じ。同じってなんだよ。

肉そばは立ち食い蕎麦のタネ物の代表格。東日本では豚肉のことが多い。豚バラ肉がガッツリのるタイプはトレンドのひとつ。『のじろう』は店主が立ち食い蕎麦を食べ歩き、つゆはココ、麺はこの感じ、肉はこの味付けをまねてみようと、各店をいいとこ取りして肉そばを完成させた

『のじろう』の看板メニューが肉そば。麺が250g、肉が100g入る豪気な一杯

同じ豚肉でも『豊しま』のように角煮のようなタイプもあれば、『白河そば』のような牛肉『河北や』のような鶏ダシ&鶏肉トッピングのパターンもある。好みの肉をトッピングして、麺だけでは不足しがちなタンパク質を摂取せよ。

立ち食い蕎麦は「何ご飯に食べるか問題」にも触れておきたい。昼ご飯という声が多いと想像するが、エリアによっては早朝から営業を始めて昼すぎには天ぷらや蕎麦が売り切れという店も案外多い。出社前の朝ご飯としてルーティンになっている人も少なくないし、飲んだ後の〆は必ず立ち食い蕎麦という向きもある。

知り合いの女性に合コンに行く前に必ず立ち食いで月見そばを食べるという人がいる。合コンの店で食べ物にがっつかないように&悪酔い防止のためだそうだが、月見というところに合コンにかけるただならぬ意気込みも感じる。

お腹ペコペコの時におすすめしたいのが春菊天とコロッケをWでトッピングする、春コロそばだ。春菊天も、コロッケも、普通の蕎麦屋にはあまりなく、立ち食い蕎麦だけに見られるトッピング。しかも、関東特有の文化らしい。どうせならこの二大TGSタネを欲張ってみようと試したら、これがなんともいい具合。

春菊天のほろ苦さに加え、コロッケが次第に崩れて甘みが加わる味変によって、最後まで堪能できる。サクサクの天ぷらやコロッケがツユに浸ってクッタリしていくのもまたよし。どうせなら、黒々と醤油の強いいかにも東京の“暗黒系”ツユの店で春コロをキメるのもいいだろう。

ところでみなさん、カレーそばって食べますか?「カレーならうどんでしょ」との声も聞かれますが、カレーそばにはカレーうどんとはまったく違ったおいしさがあると言わせてください。カレー本来のおいしさを麺を媒介にして純粋に楽しむなら、うどんに分があるのは間違いない。

しかし、カレーと蕎麦ツユがミックスされて独特の液体になった時、細いながらも味わいにより存在感のある蕎麦の方がよくからんで、全体をうまくまとめてくれる気がする。カレーが適度にスパイシーで、ダシも蕎麦自体のおいしさも強めの店のカレーそばは特においしい。

その1軒、『柳屋』でカレーそばにじゃがいも天をトッピングして味わったら、○清のカップヌードルカレー味に通じる背徳的な妙味に、地平が開く思いがした。個性的でバラエティ豊か。日本が誇る元祖ファストフード、立ち食い蕎麦の旅は、果てしないよ。

撮影/小島昇、渡辺高

2023年12月号

※2023年12月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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おとなの週末Web編集部
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