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酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか? 埼玉の奥で、地元に愛される酒を造り続ける老舗蔵がある。アイデアに溢れ、気概ある杜氏が手がけるその一杯は、家庭の食卓で輝く、愛情あふれる味わいがする。

埼玉県『武甲酒造』

【長谷川武史氏】

『武甲酒造』の杜氏、長谷川武史氏

1973年、武甲酒造の三男として生まれる。東京農大醸造学科卒業後、酒類総合研究所を経て武甲酒造に入社。2004年杜氏に就任。伝統的な手作りの酒造りを守る。塩麹やリキュールなどの商品開発にも力を入れる。

飲んで、洗い物して、また飲んで

「家での晩酌は日本酒から。夏場こそ常温のこともあるけれど、秋口から晩春までは決まって燗で酌む」と杜氏は言った。埼玉県秩父市で「武甲」や「武甲正宗」を醸す武甲酒造の杜氏・長谷川武史さんだ。江戸期の風情を残す店舗棟は築200年以上の国の登録有形文化財という老舗蔵。

『武甲酒造』

銘柄に冠する“武甲”は、秩父のシンボルである武甲山から。仕込水は敷地内の井戸に湧く、「平成の名水百選」のひとつである武甲山伏流水。石灰岩の古生層で磨かれた日本では珍しい中硬水を使って、確かな飲み応えのある酒を造っている。

「うちの酒は、ネット販売以外は、基本的に秩父エリア内だけの流通。秩父に来ないと飲めない酒です。秩父は一年中祭りが催される祭りの街。祭りにつきものの日本酒には市民の高揚感に寄り添う日常酒が好まれます。

純米や吟醸酒も鑑評会で高く評価していただていますが、売れるのは断然、普段使いの本醸造や普通酒。私も個人的にはもっぱら普通酒『武甲』ですね」

最も盛大な12月の秩父夜祭では、老若男女が湯煎で燗されたワンカップでかじかむ手を温め、グビリとやりながらそぞろ歩く。秩父の暮らしは、酒と共にある。

蔵の和の雰囲気とは打って変わって北欧インテリアでまとめられた食卓には、秩父が誇るB級グルメ「みそポテト」と、酒造用の麹で作った塩麹で漬けた野菜の塩麹漬けが並んだ。

ふかしたジャガイモに衣をつけて揚げ、甘めの味噌ダレをかけた秩父名物「みそポテト」は、長谷川家でも定番のおかずであり、酒の肴。料理好きの長谷川さんがあり合わせの材料でさっと作った野菜の塩麹漬けも格好のおつまみ。「武甲」の燗と相性抜群

酒を“レンチン”でお燗するのは決まって奥さんの担当。一杯目を「お疲れさま」の労いと共にお酌してもらうのが、長谷川家の毎晩の儀式である。しかし、亭主関白というわけではない。家事が大好きな長谷川さんは台所仕事を買って出る。

初めの一杯は妻のお酌と「お疲れ様」の一言で

「杜氏は肉体労働ですから、晩酌をしながら翌日に備えて白飯もしっかり食べます。食後に洗い物するのは必ず私。キッチンをピカピカにして、テーブルの上が一旦片付くのが気持ちいいんです。きれいに片付いたら、第二回戦のバータイムのスタート。また日本酒をやるもよし、気分を変えてうちの焼酎や秩父産ウイスキーを飲ることも。えっ変ですか?」

責任重く過酷な杜氏仕事と、夫婦円満の秘訣をかい間見た。

『武甲酒造』 @埼玉県

江戸中期、1753年創業。敷地内の5つの井戸に湧く、「平成の名水百選」に数えられる武甲山伏流水を仕込水に使って醸す。代表銘柄は普通酒の「武甲」と特定名称酒の「武甲正宗」。全国新酒鑑評会3年連続金賞受賞。

【普通酒 武甲】

『武甲酒造』の「普通酒 武甲」

【本醸造 武甲正宗】

『武甲酒造』の「本醸造 武甲正宗」
『武甲酒造』

撮影/松村隆史、取材/渡辺高

2024年1月号

※2024年1月号発売時点の情報です。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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おとなの週末Web編集部
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