ここ数年、広島県内を旅する機会が増えている。宮島の厳島神社などの世界遺産以外にも、瀬戸内海のドラマティックな景観など見どころが多い。2023年、大竹市にオープンした下瀬美術館のアーティスティックな空間、世羅町(せらちょう…
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ここ数年、広島県内を旅する機会が増えている。宮島の厳島神社などの世界遺産以外にも、瀬戸内海のドラマティックな景観など見どころが多い。2023年、大竹市にオープンした下瀬美術館のアーティスティックな空間、世羅町(せらちょう)の花畑や大竹市の工場夜景など、知る人ぞ知る美観スポットにも足を運んできたが、東広島市の西条酒蔵通りは盲点だった!食いしん坊&呑兵衛ライターを自認しておきながら、見過ごしていた…!
酒蔵めぐりにおすすめ!「ほろよい散歩クーポン」は3月20日まで
西条は京都の伏見、兵庫の灘と並び、日本三大酒どころと呼ばれている。(それも知らなかった!)江戸時代、清酒と呼ばれる澄んだ日本酒の技術は西にしかなく、当時、大坂から酒樽などを運んだ樽廻船(たるかいせん)が集積した新川(現在の東京都中央区新川)では、西から運ばれる酒が重宝されたと、茅場町(かやばちょう、東京都中央区)の老舗酒屋を取材したときに聞いたことがある。
東北のきりりとした日本酒もいいが、米の甘味のある広島のお酒にも私は目がない。
さて、西条酒蔵通りの特筆すべき点は、とにかくJR西条駅から1キロ圏内に7つの酒蔵が集まっている点だ。その酒蔵は、賀茂泉(かもいずみ)酒造・賀茂鶴(かもつる)酒造・亀齢(きれい)酒造・西條鶴(さいじょうつる)醸造・山陽鶴(さんようつる)酒造・白牡丹(はくぼたん)酒造・福美人(ふくびじん)酒造。
車で移動する必要がなく、散歩感覚でゆるりと巡れる。試飲をした後そのまま、はす向かいの酒蔵に足を運ぶなんてことも。次の目的地が徒歩3分くらいの場所だとちょうどいい酔い覚ましになる。
JR広島駅から西条駅へは山陽線の各駅停車で東へ36分。新幹線の東広島駅からはタクシーで約10分、広島空港からも近く、西条駅までのバスは片道660円で運行している。
西条駅に近づくと煉瓦造りの煙突が点在するのが見え、なにやら朝ドラの1シーンになりそうな光景が広がる。長い煙突にはその蔵の名前があり、看板のような役割を果たしている。歴史のある街という感じ。期待が高まる。
初めて降りたつ街なので、まずは駅構内の観光案内所を訪ねてみよう。地図を入手すると、酒蔵めぐりをするならば、3月20日まで使える「ほろよい散歩クーポン」がおすすめだと教えてもらった。7枚つづりで1980円(税込)のこのクーポンは、各酒蔵の試飲や酒蔵限定生酒のボトル、ぐい飲みなどと交換できる。
お酒をあまり飲まなくても飲食店でのドリンク、酒粕キャラメルや最中などのお菓子にも使えるから、大丈夫。すべての酒蔵をめぐるのにも俄然、やる気が出てくる。
本格試飲&フォトスポットも充実の「賀茂鶴」からスタート
7軒の酒蔵は徒歩圏内にあるので、どの蔵から回るのも自由だが、酒造りの工程などが学べる展示がわかりやすいので、まずは明治6(1873)年創業「賀茂鶴」の酒蔵を訪れるのもいい。
カウンターでは説明をうけつつ、本格的な試飲もできるし、巨大な酒樽やトリックアートなど、フォトスポットも多く、杜氏による酒蔵案内などのイベントも不定期で開催。西条の酒巡りの導入にはふさわしい。試飲カウンターもショップも充実している。
酒蔵は東西1キロメートルほどに集結しているなまこ壁や西条格子、杉玉など酒造りの街ならではの風情を楽しみながら、散策しよう。東広島市のゆるキャラ「のん太」とおさんぽマップ(stroly.com/viewer/1676249569)は各蔵の特徴や見どころもチェックできて便利だ。
のんきで陽気な宴会好きのたぬきののん太は毎年秋に開催される「酒まつり」が始まった平成2(1990)年に誕生。のん太は酒蔵通りのいたるところに出現し、西条駅の南口にあるお酒の神様、松尾神社の境内ではのん太大明神の石像もある。二日酔いに苦しみませんように、と祈っておこう。
日本の酒造りを牽引してきた酒蔵が揃い踏み
延宝3(1675)年から酒蔵を営んできた「白牡丹」、大正時代に酒造技術者の教育養成機関に指定されたことから「西條酒造学校」とも呼ばれて、全国から集まった杜氏に惜しみなく技術を伝えた「福美人」、昭和40年代から純米酒を発売し、純米醸造のパイオニアとして知られる「賀茂泉」など、西条の蔵は時代時代で、酒造りを支えてきた。
そんな歴史を思い浮かべながら、ほろ酔い気分で歩く心地よさ。造り手の顔が見えるようなアットフォームな酒蔵が多く、「亀齢」ではお酒のあてになるつまみや器、お酒が練りこまれたうどんなども販売され、買い物も楽しめる。
“お酒喫茶”からスイーツまで酒蔵グルメも楽しめる
広島県の醸造試験場だった洋館を「賀茂泉」が改装したカフェ『酒泉館』、「賀茂鶴」が運営する日本酒ダイニング『仏蘭西屋』など酒蔵が経営するレストランも多い。ランチには「山陽鶴」の奥にある『割烹 しんすけ』へ。
利き酒しつつ食べたかったから、くらいの軽い気持ちで選んだのだが、これまた秀逸。八寸やお造りなどを盛り込んだお重に天ぷらや茶わん蒸しがついた三段重弁当は1980円。
白飯ではなく、にぎり5貫やちらしずし、海鮮丼などを選ぶと2530円。蔵を改造した空間もここちよく、個室もあり。あまりの快適さに盃もついつい進む。
蔵ごとに違う仕込み水の飲み比べも
もちろん、目指すは西条酒蔵通りの7軒すべての酒蔵をコンプリートすること!曜日によって試飲はなく、販売だけという酒蔵もあるが、1日で無理なく回れるコンパクトさがいい。なんとなく街歩きをしているうちにたどり着けるし、煙突の銘柄を目印になんとなく見つけられる。このゆるさこそ、西条酒蔵通りのよさだ。
なんとなく出会えるものに湧水も。実は西条の仕込み水は、それぞれの酒蔵ごとに違うそう。「この蔵の仕込み水」として開放している泉も多く、地元の人たちもタンクを片手に汲みにきている。利き酒ならぬ、利き仕込み水にトライしてみるのも一興だ。
そのためにもマイおちょこを持参することをおすすめしたい。私は「酒まつり」で販売しているオリジナルグッズという首からさげられるおちょこホルダーをゲット。これは便利。
朝昼晩で風情が異なる西条は1泊旅行が正解
半日ですべてを回れるほどの範囲だが、ぜひとも一泊することをおすすめしたい。西条の日本酒だけで蒸した「美酒鍋」や、米粉でからりと揚げた「コメカラ」など、日本酒と絶妙にあう東広島のご当地グルメも多く、駅前には飲食店が連なる西条駅前屋台村、通称「酒蔵横丁」も。
とことんはしごし、飲みつくしたい。横丁の『ひで』で燗酒を堪能し、活気がある『ちゅうしん蔵』で名物「美酒鍋」を味わった。他にも日本酒専門のスタンドやお好み焼の名店など、まだまだ足を運びたいお店が。
翌日は東広島市役所の展望台から酒蔵の煙突の風景を一望できるということで、朝一番に市役所へ。現在は全ての煙突が煙突としての機能を停止しているというが、早朝に行くと、煙突とともに、周辺から湯気が立ち上る。ポスターや絵葉書のような風景を見渡せるのだ。
これも日帰りではなく、一泊すべき点のひとつ。酒造りの時期になると、街全体がふわっとお酒の香りに包まれるという。朝昼晩の趣がそれぞれ異なり、ぜひリアルで、五感で味わいたい街なのだ。
文/間庭典子