野方『おたや』
初めて訪れる寿司店のカウンター席。中に立つ店主・御旅屋(おたや)さんのどこかあどけなく人懐っこい笑顔と、食べるのが大好きと主張する容姿を見て、ここは当たりだと確信する。店のオープンは昨年の4月。「来てくれたお客さん全員としっかり向き合いたい」とカウンター7席のみの造りにした。
ちなみに料理もその時々のおまかせコースのみで、コースの序盤にやってくるのが「本鮪の山かけ」から始まるつまみの数々だ。江戸前伝統の湯霜漬けにした本鮪はほどよく味が沁みて日本酒を誘い、オイルに浸しながらじっくり蒸したアワビの柔らかな身に気分も徐々に盛り上がる。石川芋を蒸したのでひと息ついたら、ここからは握りのスタートだ。
イカや白身などの淡い味わいのものから茶碗蒸しを折り返し地点にしてトロや北寄貝といった味も香りも濃いネタへと流れるように移行していく。元は社会人ラグビー選手という御旅屋さんのごっつい手から生み出される寿司は小ぶりで非常にデリケート。
やや強めに赤酢を効かせたシャリを舌に乗せればたちまち心地良くほどけてくれる。最後のお椀にたどり着いた頃にはすっかり心を絡め取られ、次のシーズンのネタを楽しみに再訪を誓うことになるはずだ。