中目黒『鮨おにかい』
古民家の細い階段を2階に上がると、そこにカウンター10席だけの暖かい空間が広がっている。旧来の寿司屋で本格的な寿司をつまもうと思うと、どこか緊張感を覚えるものだが、ここではその必要はない。安心して委ねればいいのだ。
つけ台を挟んで向こうとこちらがほぼフラットな視界のひらけたカウンター。程よい距離感で言葉を交わしながら、一品ひと品何が来るのかワクワクしながら待てばよい。料理は小鉢と寿司で構成される「おまかせコース」(11000円)だ。
吟味され木箱に納められたネタはどれもしっかり仕事されているのがわかるが、まず驚くのはマグロだ。豊洲の卸直の一級品。寿司の最初の一品には赤身、中トロ、大トロの3つを重ねて一気に巻いたものが登場するが、いきなりの洗礼に悶絶するのは間違いない。長期熟成した赤酢と米酢のブレンドで、わりと酸味の効いたシャリがまたマグロの旨みを引き立てる。
江戸前をベースにひと捻りされたプレゼンテーションはもちろんまだまだ続く。びっくりするほど甘く、柔らかい苫小牧の北寄貝やみずみずしい白イカには、細かく包丁が入って食感も絶妙。鮮度と後を引く余韻が印象的でなかなかお目にかかれない生ニシン。風干しして皮目だけ軽く炙ったカマスは味が引き出されてふっくらしている。仕事する手元を眺めるのも楽しい。目で舌で、五感で味わう寿司の醍醐味と奥の深さをじっくりと堪能できるはずだ。