本郷三丁目『鮓 伊保』
寿司屋にはいろいろなタイプがあるが、ここは“誰かを連れて行きたくなる店”である。まず雰囲気がいい。カウンター5席のこぢんまりした空間。といっても窮屈さは微塵もなく、むしろゆったり座れてかなり快適。ほどよい距離感のある店主の接客も手伝い、不思議な親密感が生まれて実に心地よいのである。そして何より味がいい。
ネタは、店主が長年付き合い信頼を築いた豊洲の仲卸から仕入れる極上品ばかり。それを、「どう調理したら旨くなるのか」をとことん突き詰め、素材に真摯に向き合い、本来の味を最大限に引き出す。
酢や塩の加減は元より、包丁の入れ方、〆具合、シャリの温度もネタによって変えるという力の入れようだ。シャリはコシヒカリを極限まで固めに炊き、赤酢を中心に数種をブレンドした酢を合わせて食べやすく仕上げる。
それらがすべて、その時のネタとの一期一会の出合いとなり、30年間培ってきた職人の技、熱い想いとともに1貫の握りとして結実する。その旨いことといったら!清々しい味わいの小肌、口の中でとろける中トロ、ねっとりした漬けマグロなど、食すごとに感動しきりだ。
つまみ5品、握り8貫、お椀で構成されるおまかせコースを食べ終える頃には胸がいっぱい。ああ、次は誰を誘って訪れようか。そう思わずにはいられなくなるはずだ。