夜長のおつとめの体を休める、温かな具たっぷりのうどん
「新嘗祭」の日、天皇陛下と皇后陛下が召し上がるのは、ご朝餐(ちょうさん)、ご昼餐(ちゅうさん)、ご夕餐(ゆうさん)のすべてが和食になる。ご夕餐のときには、白酒(しろき)と黒酒(くろき)が供される。これは「新嘗祭」で供えられる特別な御神酒である。白酒は白濁した酒で、黒酒は久佐木(くさぎ)という植物を蒸し焼きにし、その炭を白酒に加えたもので、黒灰色をしている。
午後6時ごろから、天皇陛下は宮中三殿の西につながる神嘉殿(しんかでん)で祭儀に臨まれる。まず6時から2時間にわたって「夕(よい)の儀」を行われ、さらに午後11時ごろから「暁(あかつき)の儀」にお出ましになる。すべての祭儀が終わるのは、日をまたいだ午前1時ごろとなる。
この時、皇后陛下は祭典が終わるまでお慎みになり、天皇陛下と同じ時間に離れた部屋から神に遥拝される。ご参列の皇族方は前庭から拝礼される。かつて天皇陛下が皇太子浩宮さまだったころには、上皇陛下(当時は天皇陛下)とともに神嘉殿においてご拝礼されていた。浩宮さまが宮中祭祀を休まれたことは一度もなかったという。天皇陛下に即位されてからは、さらに自覚を深めて国民のために祈願され続けている。
かつて上皇陛下が「新嘗祭」に臨まれていたころ、祭儀が終わるまでのお長夜をお過ごしになる折には、天皇陛下と美智子さま、皇太子浩宮さまと雅子さまは「加薬(かやく)うどん」のお取り交わしをされていた。菊の御紋が入った梨地の重箱の上段に加薬(具)、下段にうどんを詰めたものを、お互いの元にお届けあうのである。
うどんは、美しく白い太めの手打ちうどん。平成30年の「新嘗祭」の折の加薬は、湯引きあひる、才巻海老の天婦羅、紅葉しんじょ、いちょう大根、菊花にんじん、末広竹の子、木の葉しいたけ、ほうれんそう、粒銀杏が折り目正しく重箱に詰められていた。たっぷりのだし汁で煮込んだら、さぞかし体にやさしいうどんになることだろう。
2024年の11月23日、人々の豊かな食を祀るこの日が、陛下にとっても国民にとっても、穏やかで暖かな夜であることを祈りたい。(連載「天皇家の食卓」第26回)
参考文献/『宮中 季節のお料理』(宮内庁監修、扶桑社)、『天皇皇后両陛下の80年 信頼の絆をひろげて』(宮内庁侍従職監修、毎日新聞社)、宮内庁ホームページ
※トップ画像は、天皇、皇后両陛下「清流の国ぎふ」文化祭にて(撮影=JMPA 2024年10月5日)
文・写真/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。