金を産出する金山を有し、かつて薩摩藩の栄華を支えた鹿児島県いちき串木野市。そんな金山の坑洞跡を活用した個性的な「焼酎蔵」があるのをご存知だろうか? しかもその蔵は観光スポットとしても人気を誇り、トロッコ電車に乗って見学できるという。 洞窟を探検するような気分で楽しめる、レアなスポットを早速お届けしていきたい。
画像ギャラリー金を産出する金山を有し、かつて薩摩藩の栄華を支えた鹿児島県いちき串木野市。そんな金山の坑洞跡を活用した個性的な「焼酎蔵」があるのをご存知だろうか? しかもその蔵は観光スポットとしても人気を誇り、トロッコ電車に乗って見学できるという。 洞窟を探検するような気分で楽しめる、レアなスポットを早速お届けしていきたい。
ノスタルジーを感じるトロッコ列車で、いざ金山の坑洞内へ!
『浜田酒造』(鹿児島県いちき串木野市)が手がける『焼酎蔵 薩摩金山蔵(しょうちゅうぐら さつまきんざんぐら)』は、日本の本格焼酎の歴史と文化を後世に語り継ぐスポットとして2005年に誕生した。約120キロメートルにもおよぶ坑洞内には、かめ仕込みとかめ貯蔵の蔵を構え、焼酎造りを行っている。1年を通して19度前後の気温と高湿度で保たれ、紫外線も届かないので、焼酎を貯蔵・熟成させるのにはぴったりの環境なのだという。
片道約700mのトロッコ列車のツアーは、ガタゴトと音を立てて走るノスタルジックな緑の列車に乗り込むところから始まる。響き渡る列車の走行音と、独特の空気を放つ坑洞の雰囲気に思わず胸が高鳴る。
案内人の田渕明さんによる鹿児島弁のガイドの声を頼りにしばらく進んでいくと、金を発掘していた掘削現場が当初のままの姿で登場する。巻上機、鉱石運搬列車など、地中に眠る鉱脈を掘り進めていた重厚な機械は、すべて人の手によって動かされていたものたちだ。
江戸時代から受け継がれる、「どんぶり仕込み」で造る焼酎
その先には、「焼酎仕込み蔵」が見えてくる。現代の焼酎造りは二次仕込み法を活用するのが一般的だが、この蔵では明治時代まで主流だった麹や原料、酵母、水をいっぺんに甕に入れて仕込み発酵させる「どんぶり仕込み」を採用して焼酎を製造しているそうだ。
造られているのは、鹿児島県産のさつまいもと幻と呼ばれた「黄金麹(おうごんこうじ)」で仕込み、華やかな香りと深くまろやかな味わいを実現した、「薩摩焼酎金山蔵」。
世界三大酒類コンテストのひとつとされる「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション2023」では、焼酎部門で最高賞となるダブルゴールドを受賞した、『薩摩金山蔵』が誇る一品だ。
さらにその先には、焼酎の原酒が1000リットル入ったかめが200本以上も並ぶ「長期熟成貯蔵庫」が見えてくる。焼酎の香りが漂っており、10年以上貯蔵された原酒もある。ここで造られている本格芋焼酎の1つに「熟成と共に福来たり」という銘柄がある。幻の麹といわれる黄金麹を用い、昔ながらのどんぶり仕込みを再現して造られた焼酎だ。
未来の自分に向けて贈る、タイムカプセルのような長期熟成焼酎
「熟成と共に福来たりをご購入いただくと、最長5年間保管でき、指定した日が来ると熟成庫から自宅まで配送される仕組みになっています。瓶のラベルにメッセージを書き込むことができるので、未来のご自分への贈り物として購入していかれる方もいれば、あと数年で成人になるお子さんへの将来の贈り物として購入される方、未来の結婚記念日に配送されるように夫婦で購入される方など、用途はさまざまです」と、案内人の田渕さん。
これは、まさにおとなのタイムカプセルと言えるだろう。数年後の自分や家族を想像し、その時に向けてラベルにメッセ―ジをしたためる作業は、なんとも感慨深い作業だ。
金の観音菩薩像や神社も、奥に眠る驚愕のパワースポット
「焼酎の製造場」を抜けると、その先には予想もできないパワースポットが待ち構えている。坑洞内に『薩摩開運神社』がひっそりとたたずんでいるのだ。島津家第17代当の主島津義弘(しまづよしひろ)公(1535~1619年)を祭神として祀る神社として『焼酎蔵 薩摩金山蔵』が誕生した際に鹿児島県姶良市に鎮座する『加治木精矛神社(くわしほこじんじゃ)』から分祀されたものだという。
島津義弘公は、戦国時代から安土桃山時代の薩摩を代表する武将。1600年の関ヶ原の戦いの時、西軍の石田三成とともに東軍の徳川家康と戦ったが、劣勢に立たされ、敵陣の真ん中を突破し薩摩へ戻ってきた人物だ。
後に「島津の退(の)き口」として語り継がれる。その苦難を思い、鹿児島では秋に「妙円寺詣り」という伝統行事が行われるほど、家臣に慕われていた。『薩摩開運神社』には、自ら運を開くご利益があるそうだ。近代日本を生み出す力を与えられた串木野金山の「金運」を併せもつパワースポットでもある。
さらにその奥では異彩を放つ「金の観音菩薩像」を拝むことができる。1929年頃に串木野金山の作業員によって建立された菩薩像だそうで、当初は金採掘へ向かう作業員たちを見守ってきた。戦争になり没収されたが、戦後に三井串木野金山が再開され、その十数年後に新しく建立されたものだという。今はこの場所で焼酎を静かに見守っている。
『焼酎蔵 薩摩金山蔵』を訪れたら、ぜひ歴史を語る焼酎蔵の見学とあわせて神社や観音菩薩像などのパワースポットも楽しんで帰っていただきたい。今まで体験したことのない、記憶に残るひとときが過ごせるだろう。
『焼酎蔵 薩摩金山蔵(しょうちゅうぐら さつまきんざんぐら)』
[住所]鹿児島県いちき串木野市野下13665
[電話]0996-21-2110
[営業時間]10~17時
[休日]平日、公式HPを要確認
[交通]JR「串木野駅」より路線バスで川内方面へ。「野下口」下車、徒歩約5分
[料金]特別試飲付きコース(20歳以上の方限定)2500円、試飲無しコース(3歳未満無料)、予約価格大人800円、小人400円、当日価格大人900円、小人450円 」
[見学ツアー予約フォーム]https://ma.shochu.life/kinzan_tour_2024_[公式HP]https://www.hamadasyuzou.co.jp/kinzan/
文・写真/中村友美
フード&トラベルライター。東京都生まれ。美術大学を卒業後、出版社で編集者・ディレクターを経験後、現在に至る。15歳からカフェ・喫茶店巡りを開始し、食の魅力に取り憑かれて以来、飲食にまつわる人々のストーリーに関心あり。古きよき喫茶店や居酒屋からミシュラン星付きレストランまで幅広く足を運ぶ。趣味は日本全国の商店建築巡り。