日本人で初めてローマ法王に直接そうめんを献上 した人物がいる。そうめんのふるさととされる、奈良県桜井市で三輪そうめんの製造・販売等を行う『マル勝高田商店』の高田勝一社長(52)だ(高はいずれもはしごだか)。どうしてローマ法王に謁見することができたのか、当時の思いを振り返ってもらった。
画像ギャラリー日本人で初めてローマ法王に直接そうめんを献上した人物がいる。そうめんのふるさととされる、奈良県桜井市で三輪そうめんの製造・販売等を行う『マル勝高田商店』の高田勝一社長(52)だ(高はいずれも「はしごだか」)。どうしてローマ法王に謁見することができたのか、当時の思いを振り返ってもらった。
※トップ画像は、バチカン・サンピエトロ広場でローマ法王と握手する高田社長(2014年)
そうめんは「パスタ・ジャポネーゼ!」
ローマ法王に謁見し、『マル勝高田商店』4代目の高田社長が三輪そうめんを献上できたのは2014年4月23日、バチカン市国のサンピエトロ広場でのこと。
三輪そうめんを献上して、世界中の皆さんに三輪そうめんを知っていただける機会になったら……と考えた高田社長。
「ローマ法王に商品を献上するということは、基本的に宣伝行為になってしまうのでNGなのです。ただし、三輪そうめんの起源は8世紀末ごろ、日本最古とされる神社・大神(おおみわ)神社の宮司さんの次男が飢餓で苦しむ人たちのために作られたものとされています。こうした宗教的な背景もあることからOKとなりました」
2012年頃から献上に向けて動き出した高田社長。しかし、2013年の第265代ローマ教皇のベネディクト16世の退位により、献上の話は一旦白紙になってしまう。
「日本への造詣が深いミラノの日本人カトリック教会の神父様がいらして、改めてバチカンに申請してくださいました」
高田さんが謁見して三輪そうめん「三輪の神糸」を献上できたのは、現ローマ法王のフランシスコ第266代教皇で、2013年3月13日から在位している。
毎週水曜日のローマ法王の謁見が行われる日は世界中から人々が集まってくるのだそう。
「『三輪の神糸』を専用の桐の箱に入れて、そうめんの歴史や食べ方などを記した手紙を添えました。奈良の手漉き和紙を掛け紙にして、奈良県出身で交流のあった映画監督の河瀬直美さんに題字を書いていただき、特別仕様にしたものを用意しました。ローマ法王はそうめんを『パスタ・ジャポネーゼ』と言って喜んでくださいました。ご尽力くださったミラノの神父様にも同じものをお渡ししたところ、信者さんたちとみんなで召し上がってくださいました」
ローマ法王も口にしたという「三輪の神糸」とは、どんなそうめんなのだろう。
転機はトランス脂肪酸への着目から
『マル勝高田商店』を代表する商品「三輪の神糸」について高田社長は、「最大の特徴は、原料へのこだわりと強いコシを実現していることです。」と話す。
「コシが出るように、季節に合わせて配合を変えた2種のオリジナルブレンドの小麦粉を使っています。手延べそうめんを作る際には、麺同士がくっつかないように、そして乾かないように油を使います。多くの場合は綿実油を使用しますが、当社ではイタリア直送のこだわりのオリーブオイルを使っています。三輪地区はいわゆる『ひねもの』と呼ばれる、そうめんを熟成するケースが多数派です。綿実油の場合、長期保存しているうちに油が酸化したにおいが発生しがちです。オリーブオイルを使うことにより、このにおいを防ぐことができました」
『マル勝高田商店』が手延べの際にオリーブオイルを使うようになったのは、およそ20年前。油脂に含まれるトランス脂肪酸により心臓疾患などのリスクが高まるとして注目されたことから。
高田社長はイタリアに飛び、オリーブオイルについて知っていくうちにこだわりが加速した。現在では原材料として使用しているエキストラバージンオリーブオイルやワイン、ハチミツなどのイタリア食材を現地生産者と独占販売契約を結び輸入品を扱う、別会社を作るほどの関係性を築いた。
「イタリアでさまざまなご縁を得て、現地のイベントでそうめんを振る舞っていました。その際に通訳をしてくださった方が偶然オリーブオイルの鑑定士で、様々な繋がりでこれらの機会に恵まれました」
イタリアではオリーブは平和の象徴。オリーブオイルに着目したことからこれほどまでにたくさんの好循環が生まれた。
「第5回 The 乾麺グランプリ2024 in TOKYO」素麺部門受賞
ライターの私が『マル勝高田商店』の主力商品である三輪そうめん「三輪の神糸」を知ったのは比較的最近のこと。
2024年5月に東京・新宿で行われた「第5回 The 乾麺グランプリ2024 in TOKYO」 の素麺部門の部門賞に輝いていたからだ。
主に商品展開をしているのは近畿圏で、関西2府4県のセブン-イレブンのお弁当のそうめんに採用されている。今年からはパッケージに「『三輪の神糸』使用」の旨が記載されているのだそう。
その他のエリアでは西友やOKストアなどで取り扱っているという。東京の筆者の生活エリアに左記の2軒はないが、地元のスーパー「サミット」でも見かけた。
早速いただいてみると、確かににおいがないので、繊細な出汁の香りがわかりやすい。クセもないから、いろいろなお料理にもアレンジしやすい。コシがあるのでにゅうめんなどにしてもくたっとしづらいのが特長だ。
「三輪の神糸」は茹で時間が2分。そうめんをいただくのは夏場が多いのであまり気にしていなかったが、茹で時間が短いそうめんって改めて本当に手軽。個人的には茹で時間はもう少し短くしたいと思ったが。
オリーブオイルの使用によりフレッシュさが続く
高田社長が説明する。
「そうめんは賞味期限がないと言われますが、お客様の利便性を考えて製麺してから3年半で設定しています。油の酸化が抑えられるので、ローリングストック食材としても注目いただいています」
「約1300年の歴史を持つ三輪そうめん。当社は1933(昭和8)年創業なので会社としての歴史は浅いほうです。だからこそ、そうめんに新たな価値を創造していきたいのです」
製造・販売のほかに、奈良県桜井市で展開しているのがそうめん専門店「てのべたかだや」だ。2020年にオープンし、出汁のカルボナーラ仕立てやイカ墨を使ったものや、韓国冷麺のアレンジといった創作そうめんメニューを提供し、行列のできる人気店になっている。
「そうめんは夏のイメージだと思いますが、四季を通して召し上がっていただきたいという思いから、春夏・秋冬の季節限定でメニュー展開をしています」
オリーブオイルを使用しバターを使わないレモンケーキや山椒を使ったガトーショコラなど、スイーツにもこだわっている。
自宅でも店舗でも楽しめる「三輪の神糸」。胃腸が疲れがちなお正月休みこそ、ぜひお試しください。
『三輪の神糸』400g・822円
■『てのべたかだや』
https://www.tenobetakadaya.com/
文・写真/市村幸妙
いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。
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