日本の冬は「みかん」!甘くて美味しいみかんの選び方は? AIを使った選果システムとは? 生産量トップ3県に聞く最新事情 

みかん博覧会

美味しいのはもちろん、見るだけでも元気が出るような明るい色で、風邪の予防などにも良さそうなイメージのみかん。手で簡単にむける手軽さも最高よね。今が旬のみかんについて、日本のみかん生産量1〜3位の和歌山県、愛媛県、静岡県の各県担当者に話を伺う機会を得た。美味しい選び方から伝統的な農業のこと、最新の取り組みなどを聞いた。ミカンのことを知って美味しく食べて元気に冬を乗り切ろう!

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美味しいのはもちろん、見るだけでも元気が出るような明るい色で、風邪の予防などにも良さそうなイメージのみかん。手で簡単にむける手軽さも最高よね。今が旬のみかんについて、日本の温州みかん生産量1〜3位の和歌山県、愛媛県、静岡県の各県担当者に話を伺う機会を得た。美味しい選び方から伝統的な農業のこと、最新の取り組みなどを聞いた。みかんのことを知って美味しく食べて元気に冬を乗り切ろう!

色みが濃く、果皮のつぶつぶがきめ細かい

まず知りたいのは、どんなみかんを選んだら甘くて美味しいのか。温州みかんの収穫量が20年連続日本一、2023 年度は14万3900tで第1位の和歌山県の担当者に聞いた。

「温州みかんの場合、橙色の色みが濃く、果皮の粒々がきめ細かいものを選んでください。この粒々は油胞という油を溜めた細胞なのですが、その密度が高いと美味しいとされています。ヘタの軸はストローのようなものなので、水がたくさん入るとボケた感じの味になるんです。ですから軸が小さいと水分を取り込める量が少ないので甘みが濃縮されます。また、お尻側の表面に凹凸があるものも水分ストレスにさらされた証拠で、味が濃くなる傾向があります」

色の濃さや軸の大きさについては、感覚的に納得できる。みかんを選ぶときにいつも気にしていたのは、皮がぷかっと浮いているものは避けることくらい。粒々については考えたこともなかったし、お尻はつるんとしたきれいなものを選んでいたので衝撃的だった。

お話を聞いた「おいしい博覧会 2024秋冬」(PRTIMES主催)での和歌山県のブース

世界農業遺産認定を目指す和歌山県

「和歌山県では室町時代にはすでにみかんの栽培が行われていて、1600年代には、紀州藩の初代藩主である徳川頼宣公により商業栽培が開始されました。山がちな和歌山県の中でもより急傾斜地が多い有田・下津地域でみかんの栽培が奨励され、お金を生み出せる政策が取られました。有田・下津地域でのみかん栽培は傾斜地を切り拓き、石を積み上げた『階段園』ですが、これは世界的に珍しい形式です」

石を切り出し、石がなければ河原から運ぶなどして築いた『階段園』を受け継ぎ、自然条件を巧みに生かしてみかん栽培が続けられている。

「年内は有田みかん、下津地域では貯蔵(蔵出し)を行って年明けの出荷を叶えるという、みかんの長期リレー出荷というシステムを現実させました。この『有田・下津地域の石積み階段園みかんシステム』は、『世界農業遺産』に申請中です」

『世界農業遺産』とは、国連食物農業機関(FAO)が定める、農業生物多様性や地域の伝統的な知識システムといった世界的な重要性や申請地区の特徴及び保全計画に基準に基づき評価されるもの。和歌山県では、「みなべ・田辺の梅システム」が2015年に認定されている。

なお、2018年には海南市下津地域が『下津蔵出しみかんシステム』で、2020年には有田地域が『みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム』でいずれも『日本農業遺産』に認定されている。

『日本農業遺産』とは、何代にも渡って脈々と受け継がれてきた伝統的な方法で、その土地固有の独自性を持って営まれてきた農業・林業・漁業に対して、農林水産省が認定するもの。2024年現在、日本国内では24の地域 が認定を受けている。

有田地域の石積み階段園。傾斜地なので、排水や風通し、日照面などメリットが多い

1900年前にみかんが日本へ、下津が発祥の地と伝わる

和歌山県とみかんの関係性ってどんなものなのだろう。

「みかんを日本にもたらしたのは約1900年前、第十一代垂仁(すいにん)天皇の命を受け、常世の国(とこよのくに・現在の中国あたり)に渡った田道間守(たぢまもり)とされています。不老不死の果物として、みかんの原種である橘(タチバナ)を持ち帰り、熊野街道にある下津町橘本の『六本樹の丘』(橘本神社旧社地)に植えたと伝えられ、下津地域はみかん発祥の地とされています」

発祥地については諸説あるようだが、これは記紀(古事記と日本書紀)に記されているのだそう。

また、紀州のみかんを嵐の中、決死の覚悟で江戸まで運んで富を築いた紀伊国屋文左衛門の「みかん船伝説」などは講談などでも演じられるよね。和歌山県とみかんのつながりが、いかに私たちの文化に浸透しているのがわかる。

「有田むき」や「和歌山むき」と呼ばれるみかんのむき方。お尻側から四つ割りにしてヘタ側からむくと白い筋部分が取れやすい

日本初のAIを使った選果システムは静岡県から

温暖な気候のため、県全域でみかん栽培が行われている静岡県。浜名湖の北側に位置する浜松市三ヶ日(みっかび)町は特に全国有数の産地として有名だ。というか、個人的に「三ヶ日みかん」の箱が店頭に並び出すとウキウキしてしまう。なお、静岡県の温州みかん収穫量は9万9800tで第3位だ。

「品種は温州みかんがメインですが、貯蔵システムが構築されていて、1月以降本格的に出荷が始まり、市場に果物が少なくなってくる3月くらいまで出荷しているのが静岡県産のみかんの特徴です。12月末辺りまでに収穫を終えたみかんは、貯蔵することで酸みが程よく抜けて味がまろやかになり、水分も抜けるため甘みが濃くなります」と県の担当者が教えてくれた。

静岡県のみかんの産地「三ヶ日」と浜松の「とぴあ」

「JAみっかびでは2021年より、JAとぴあでは2023年から、他県に先駆けて全国初・国内最大規模で導入したのが、AIによる最先端の外部品質センサーを使った選果場です。JAみっかびでは約80億円という総工費がかかりましたが、選果はみかん栽培の中でもおよそ4割もの負荷を占める大変な仕事です。最先端の外部品質センサーを使うことで、傷んだみかんの紛れ込みが軽減されるので、農家さんにとっても消費者の方にとってもメリットしかありません」

2024年3月には、静岡県と(国)理化学研究所が共同開発した温州みかん「春しずか」が品種登録された。

「昨今の地球温暖化により、気温が高くなったり長雨が続いたりと気候が不安定になることは、みかんの貯蔵にとって大敵です。皮が浮いたり皺が寄ったりすると商品価値がなくなってしまうこともあるため、リスク回避を期待できる品種として開発されたのが『春しずか』です」

2027年度から本格的な販売が予定されているそうで、出合えるのが今から楽しみだ。

「三ヶ日みかん」のゼリーなど加工品も美味

ちなみに今回知ったのだが、駿府城内には、徳川家康が手植えしたとされるみかんの樹が現在も残っており、県の天然記念物になっている。

2024年12月14日、15日、17日には静岡県内で、この家康ゆかりの収穫されたみかんを配布するイベントが行われていた。そういう樹があることはもちろん、こうしたイベントが実施されていること自体知らなかったので気になる!

柑橘王国・愛媛が送り出す新品種「紅プリンセス」、一個1500円のものも!

温州みかんの2023年の収穫量は11万1100tで第2位の愛媛県。ただし、温州みかんだけでなく、柑橘類も力を入れている。

そんな愛媛県発の大人気柑橘「紅(べに)まどんな」をご存知だろうか。11月末頃から1月上旬頃までが旬で、デパートのギフトコーナーでは、お歳暮やお年始のシーズンにかかるため重宝されている品種だ。豊かな香りでみずみずしい果肉はゼリーのようなとろりとした食感で、10年ほど前に初めて食べた時の感動と驚きは今でも忘れられない。

「『紅まどんな』は厳選出荷していることもあり、高品質なものを皆様に召し上がっていただいています。そのことにより、人気と価値が高まり、贈答用では1個1500円ほどする場合もあるようです」と県の担当者。

かなりの高嶺の花になってしまった!

ジューシーで皮が薄い「紅まどんな」はスマイルカットでぜひ

「愛媛県の主なオリジナル品種には、『西之香』と『ポンカン』をかけ合わせた『甘平(かんぺい)』もあります。シャキッとした食感と強い甘みと酸みが特徴で、例年1月中頃から3月上旬あたりまでが旬となっています」

話題の新品種「紅プリンセス」2025年3月から出荷予定!

「紅まどんな」と「甘平」を交配した新品種「紅プリンセス」が、いよいよ2025年3月中旬頃に、初めて市場に出回る予定だ。「紅まどんな」の食感と「甘平」の濃い味わいを併せ持つと聞いただけで魅力的な柑橘であることは想像に難くない。

「『紅プリンセス』は交配を開始してからここまで、およそ20年もの時間がかかっています。品種開発にはそれくらいの期間はかかるものですが、やっと日の目を見ると思うとやはり感慨深いですね」

愛知県では2024年11月から、「紅まどんな」、「甘平(かんぺい)」は「紅かんぺい」とし、「紅プリンセス」の3品種を親子柑橘ブランドの「紅コレクション」としてキャンペーンを行っている。それぞれ旬の時期が少しずつずれているのでお見逃しなく。

ちなみにこの愛媛県オリジナル品種たち、美味しい個体の見分け方は、表皮がツルツルと美しいことだそう。

「紅まどんな」は、「南香」と「天草」をかけ合わせているのだが、「南香」と「天草」は残念ながら食べたことがないため、俄然気になって仕方がない。交配って興味深い。美味しい新品種を生み出す人々の努力に頭が下がる。

愛媛県も『世界農業遺産』認定を目指す

愛媛県も地域に受け継がれる農文化や地域循環型農業など、特異な地形条件下での高いサステイナビリティを有する「愛媛・南予の柑橘農業システム」として、2018年に『日本農業遺産』に認定されており、現在は『世界農業遺産』認定を目指している。

新しい美味しさをぜひ!

みかんって身近で当たり前にありすぎるせいか、知らないことがたくさんあった。そして各県が自分たちの強みを活かしながら、絶妙に棲み分けをしていることに今さらながら気づいた。

今回の3県を含む、みかんの様々な産地の自治体や各JAなどが協働して「デスクdeみかん」という取り組みが行われている。みかんの配布などが行われているのでご存じの方もいるのではないだろうか。みなさんも美味しいみかんをいただいて、健やかな日々をお過ごしください。

■参考資料

●三ヶ日みかんの選別プロセス

https://mikkabimikan.jp/blog/60?srsltid=AfmBOoojEWIFN-ZCigbB6yATJL7oEfjWQy3VgYUXxSiE6DcUUmaiwqEB

●理化学研究所(春しずか)

https://www.riken.jp/pr/news/2024/20240409_1/index.html

●静岡新聞SBS(家康公お手植えミカン配布)

https://www.at-s.com/event/article/flavor/118567.html

文・写真/市村幸妙

いちむら・ゆきえ。フリーランスのライター・編集者。地元・東京の農家さんとコミュニケーションを取ったり、手前味噌作りを友人たちと毎年共に行ったり、野菜類と発酵食品をこよなく愛する。中学受験業界にも強い雑食系。バンドの推し活も熱心にしている。落語家の夫と二人暮らし。

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