マツダRX-7などに搭載されていた「ロータリーエンジン」は、ピストンが上下する一般的なエンジンと異なり、おむすび型の回転体を心臓部に持つものだ。個性的な特徴を持つもののデメリットもあり、RX-8を最後に一時生産中止になっていた。しかしマツダは新たな形でロータリーを復活させた。その最新事情をお伝えしよう。
画像ギャラリーマツダRX-7などに搭載されていた「ロータリーエンジン」は、ピストンが上下する一般的なエンジンと異なり、おむすび型の回転体を心臓部に持つものだ。個性的な特徴を持つもののデメリットもあり、RX-8を最後に一時生産中止になっていた。しかしマツダは新たな形でロータリーを復活させた。その最新事情をお伝えしよう。
コスモスポーツに始まったロータリーエンジンだがRX-8で一時生産中止
ロータリーエンジンは、スズキや日産からロールスロイスまで、かつてはさまざまなメーカーが研究した。一部に商品化も見られたが、大半は生産規模が小さく短命に終わり、長く造り続けて成功させたのは世界中でもマツダのみであった。
マツダが最初に開発したロータリーエンジン車は、1967年に発売されたコスモスポーツだ。ロータリーエンジンのコンパクトで軽い特徴を生かして、外観がスマートなスポーツカーに搭載したから、高性能なパワーユニットのイメージが根付いた。ファミリアセダンなどに最初に搭載していたら、ロータリーエンジンの印象もかなり違っていただろう。
この後、ロータリーエンジンはさまざまなマツダ車に搭載されたが、燃費性能と排出ガス規制の対応が困難だった。その結果、1990年代に入ると次第に車種を減らしていく。やがてRX-7に絞られ、これが2003年に登場したクーペ風セダンボディのRX-8に受け継がれ、約10年後の2013年に終了した。
マツダMX-30ロータリーEVで復活!!
しかし搭載する車種が消滅した後も、ロータリーエンジンの開発は続いていた。2016年に、マツダの常務執行役員を務められていた藤原清志氏をインタビューした時、次のように返答された。「かつてロータリーエンジンは、マツダを支える技術で、これがあったからこそ生き残ることができた。
だからロータリーエンジンの開発は、マツダの使命だと考えている。私はロータリーエンジンの葬儀委員長なんて、やりたくない。だからロータリーエンジンの開発は、少人数になっても続けていく。なぜ今、ロータリーエンジンをやるか、という意味が重要になる」。
この後、2023年にMX-30ロータリーEVが発売された。プラグインハイブリッドで、ロータリーエンジン(シングルローター)を使って発電機を作動させる。
MX-30ロータリーEVの登場で、RX-8の販売終了から約10年ぶりにロータリーエンジン搭載車が蘇ったことは嬉しく思えたが、運転してロータリーの回転感覚を味わうことはできない。
ロータリーエンジンは発電機の作動のみに使われ、駆動はモーターが受け持つからだ。運転感覚は電気自動車で、むしろシングルローターによる発電用エンジンの粗さが気になった。
そこで開発者に「発電用エンジンでも、ドライバーにロータリーエンジンの存在を意識させるような仕立てや演出はないのか」と尋ねると「そういうことは、やっていない」と返答された。
またマツダは、ジャパンモビリティショー2023に、アイコニックSPと呼ばれるロータリーエンジンを搭載するスポーツカーを出展した。これも「2ローターのEVシステムで、ロータリーエンジンは発電を行う」と説明された。
発電用ではないロータリーエンジン搭載車の登場は?
つまり基本的にはMX-30ロータリーEVと同様の考え方だが、数人の開発者に「今後のロータリーエンジンは、発電機の作動だけに使われ、もはやホイールを直接駆動することはないのか。駆動の加減速において、ドライバーが運転感覚として、ロータリーエンジンを味わうことはできないのか」と尋ねると「決してそうではない。ロータリーは発電用エンジンではない」と返答された。
このコメントは示すのは、コンパクトなロータリーエンジンと、直接駆動も併用するハイブリッドの存在だろう。振動を打ち消すことも考えて、2つのロータリーエンジンを縦向きに配置して、その後部にモーターを連結する。モーターの断続を可能にして、ロータリーエンジンのダイレクトドライブモードを設定するような方式だ。
また水素の供給が難しいものの、直接水素を燃焼させる二酸化炭素を排出しない水素ロータリーエンジンの研究も進められていた。ロータリーエンジンは植物由来のバイオエタノールとの親和性も高い。燃焼段階で二酸化炭素を排出しても、植物が育つ時点で吸収しているというわけだ。ロータリーエンジンは、ハイブリッドの発電用に限らず、さまざまな可能性を秘めている。
今後、ロータリーエンジンの伸びやかな運転感覚を再び新車で楽しめる時代が到来するかも知れない。
文/渡辺陽一郎(わたなべ よういちろう):自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。執筆対象は自動車関連の多岐に渡る。
写真/マツダ