酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?今回は和歌山県にある『吉村秀雄商店』(※吉は本来、「土」の下に「口」)を訪ねた。杜氏の藤田晶子さんのモットーは「自由に、くだらないことを言い合いながら」酒を楽しむこと。蔵人と盛り上がる毎晩の食事を覗かせてもらった。
2013年、和歌山県『吉村秀雄商店』の杜氏に就任
【藤田晶子氏】
1980年、東京都生まれ。2003年、東京農大醸造学科卒業後、「常きげん」の鹿野酒造に入社。“日本酒の神様”と称される名杜氏・農口尚彦氏に師事する。2013年、吉村秀雄商店の杜氏に就任。「食を豊かにする酒」を目指して醸す。
蔵人みんなで食卓を囲んで
「毎晩必ず、蔵人全員で食卓を囲み、自分たちが造った酒を自由に酌む」と杜氏は言った。
「車坂」を醸す吉村秀雄商店の杜氏・藤田晶子さんだ。日本最高峰の醸造家と謳われる農口尚彦さんの薫陶を受けた藤田さんが目指すのは、農口流の旨み深くキレ鋭い酒だ。
その晩、蔵の食堂には、全量山田錦で醸した純米大吟醸と生もと純米酒の2種類の「車坂」、そして地元で親しまれる「日本城」の普通酒が用意された。好きな酒を好きな飲み方で味わっていい仕組みだ。
食卓には“一人一鍋”の豚しゃぶをメインとする料理の数々が所狭しと並ぶ。作業を終えた蔵人が次々と席に着き、藤田さんの「いただきます」の声で食事が始まった。醸造期間は季節雇用の蔵人全員で毎日三食を共にする、昔ながらのスタイルを守っている。
「同じ釜の飯を食べることはとても大事。おいしいものをお腹いっぱい食べて、腹を割って話す。蔵人が丹精込めて造った酒を味わう機会としても大切です」