酒の造り手だって、そりゃ酒を飲む。誰よりもその酒のことを知り、我が子のように愛する醸造のプロ「杜氏」は、一体どのように呑んでいるのか?今回は茨城県筑西市の『来福(らいふく)酒造』を訪ねた。杜氏の加納良祐さんは、自身が醸すお酒、そしてふたりの娘の笑顔が晩酌には欠かせない。ぬくもりに満ちた食卓が明日の活力となる。
2025年、『来福酒造』の杜氏に就任
【加納良祐氏】
1983年、東京都生まれ。幼い時から食に強い興味を持つ。東京農大醸造学科卒業後、2005年、来福酒造に入社。日本酒をはじめ、ワイン、ブランディ、リキュール、ジンなど幅広い酒造りに携わる。2025年、杜氏に就任。
日本酒からワイン、ジンへ
「毎晩、日本酒は必ず。気分に合わせてワインやジンも酌む」と杜氏は言った。「来福」を醸す来福酒造の杜氏・加納良祐さんだ。
来福は様々な花から分離させた花酵母を使う日本酒だ。使用する米も全国の酒米、茨城県産食用米と多彩。香り豊かなスッキリ系、酸が効いた濃醇系などバラエティに富んだアイテムは30種を超える。
入社20年目の昨年、加納さんは杜氏となった。桜が散る4月、杜氏初年度の終盤戦に奮闘中だ。
「来福はどんな酒?とよく聞かれますが、明確な答えは難しい。米と酵母の特性を引き出した結果、多種多様な風味に仕上がります。好みの1本、自分の来福を見つけてもらえたら嬉しいです」
終業後、蔵から車で10分の自宅へ。
「近くに日本酒に特化した居酒屋がないし、一緒に飲んでくれる友達もいないし」と笑う。小5の花芽ちゃんと小1の衣織ちゃん、ふたりの娘と順番に入浴を済ませたら、奥様の奈々さんと4人での晩酌タイムだ。
花芽ちゃんが「来福・純米吟醸」のボトルを開け、父、母へと注ぐ。「におい〜」と乞う彼女に加納さんがグラスの酒を嗅がせると、「いい感じ」と笑顔がこぼれた。
豚肉ともやしの酒蒸し、熱々のごま油をジュッとかけた厚揚げ、地元の名物である親鶏チャーシューなどが並んだ。学校の出来事の話をしながらふたりの娘はもりもり食べる。父母は見守り酒を酌む。
手探りで始めたワイン醸造は8年目を迎えた。近年いい具合になってきたロゼを開けると、衣織ちゃんが「におい〜」と乞う。加納さんが「ブショネ(品質劣化現象)大丈夫?」とコルクを嗅がせると、「大丈夫〜」とはにかんだ。毎晩の幸せな家族の風景だ。
「僕はこの瞬間のために酒造りをしていると言ってもいい。僕自身が最高の晩酌のためにがんばることで、お客様にも自分の大切な時間に飲んでもらえるようになると信じているから」
加納さんは伝統を守りながら働き方の革新に挑む。蔵人には酒造りの未来に希望を持ちながら取り組んでもらえるように、週休2日と就業時間短縮に向けて改革中だ。杜氏一年生のパパは光っている。