ミュージシャンはキャリアを重ねると声が変化する
ミュージシャンはキャリアを重ねると声が衰えたり、声質が変化したりしていく。そのキャリア50年以上のユーミンの現在の声質は、荒井由実時代から当然、変化している。そこで現在の声質と荒井由実時代の声質を“Chrono Recording System”でミックスした。そうして生まれたアーティストが“Yumi AraI” なのだ。
過去と現在を一瞬のうちに結びつけ、未来である“Yumi AraI”を創出したというわけだ。そのことがアルバム・タイトルである『Wormhole』と結びついているのだ。こういったことはキャリアが10年、20年くらいのアーティストにはあまり意味がない。キャリア50年以上のユーミンだからこそ可能だし、ファンも納得させられるのだ。
詞の中にも過去・現在・未来が感じられるが、まだ1枚しかアルバムを発表していない男性シンガー・ソングライターのimaseとの共同楽曲「交通」にもそういった時空の通過を感じさせてくれた。これからの未来があるとユーミンが思うimase と現在で共演して、未来を生み出したのだ。現在では死語に近い“文通”という言葉をあえて用いたのも、過去と現在の時空を超えた結び 付きなのだろう。
グループ・サウンズを想起させる「小鳥曜日」を気に入った
個人的に気に入ったのは「小鳥曜日」とい うだ。この曲は、少女時代だったろう1960 年代のユーミンが好きだったと思えるGS(グループ・サウンズ)のザ・タイガースのヒット曲「青い鳥」を思い起こさせる何とも言えない良きノスタルジーがある。“青い鳥 という言葉こそ出てこないが、“青い空へ飛んでいった”とか“青いオリーブの小枝”といったフレーズに、“青”という言葉の時空の超越を感じさせてくれる。
ユーミンは荒井由実時代から松任谷由実時代を経て、現在まで常にその時代の最先端のサウンドを提示し続けてきた。それが今、“Yumi AraI”として更なる未来へ過去を抱擁しつつ飛び立った。それがこのニュー・ア ルバムの核心なのだろう。過去・現在・未来 を同時に垣間見せてくれるアーティストだか らこそ、このアルバムを聴く価値がある。


