お月見のれんで出迎えてくれた『松井本館』。季節や行事にあわせて毎月装いを変えるのれんに、四季の移ろいを大切にしながら暮らす京都らしさがうかがえます。
数寄屋門から玄関までのアプローチは、街中であることを忘れさせる落ち着いた雰囲気を演出する。
ロビーを飾るのは祭り行列が描かれた杉絵。先代が買い込んだ骨とう品が多数あり、そこから掘り出したものだとか。
若女将の松井もも加さん。「人と関わる仕事が好き」と大学卒業後は旅行代理店や結婚式場などに勤めていた。2013年に実家の松井本館に入社。
廊下に面した格子戸をあけると砂利と敷石のアプローチ。この先にあるのが二間続きの特別室。館内の気配からも距離をおいたプライベート感が魅力。
真っ先に予約が埋まる坪庭付きのお部屋。各室とも室内の装飾は控えめで、あじろ天井や壁紙で華やかさも出しつつすっきりした雰囲気に整えられている。全室バスルーム付き。
地下に降りると滝を望む大浴場「滝の湯」と「花の湯」が。もとは宴会場に面した滝だったとか。
脱衣所には鳥獣戯画を描いた洗面鉢や花型のタイルなど遊び心にほっこり。浴場にはジェットバスやミストシャワーが備えられており、「京都の人は新しいものも大好きなんです」と若女将。
夕食は本格京懐石。一品目、この日の先付は“重陽の節句”にちなんだ菊の花と、月に見立てた観月玉子が秋の訪れを告げる「菊花寄せ」。
ひとつひとつ丁寧に作られた「八寸」。カマス鮨、栗の渋皮煮、あんずとさつまいものクリームチーズ、卵黄を練ったけんちんのラタトゥイユなど。糸瓜のゼリー白酢和えには焼柿とナシのサイコロを添えている。栗や柿、もみじを模した小さい器が愛らしい。
『松井本館』と『松井別館 花かんざし』の毎月の献立を立てるのは、旅館の板場一筋という料理長の鳴川明展さん。細かい細工も得意で、タイ、マス、アオリイカの3種盛りのお造りが華やかな一皿に。
秋のお楽しみ「月見ひろうす」は、細く刻んだ針松茸におろししょうがを添えた、まんまるのがんもどき。軽くあぶった松茸の香りが鼻先をくすぐる。