国内外から愛される京都にあって、もっとも京都らしさを味わえる空間……そのひとつが旅館ではないでしょうか。京文化に深く根ざし、歴史とともに育んできたプライド、守られ受け継がれてきた伝統をもって供される“もてなし”のカタチ。変容する時代に対応しながらも、自身の存在意義は決して忘れない……“唯一無二の京都体験”がここにあります。
京都の中心、四条で放つ京旅館の伝統と多様性
東西に走る四条通と御池通、南北に走る烏丸通と河原町通に囲まれる京都市街のど真ん中。観光客、ビジネス客、修学旅行生を迎える宿がひしめく一帯がここ。創業88年の『松井本館』は、“京の暮らしに溶け込こむような滞在”ができるとともに、落ち着いた京の情緒が味わえる京旅館。
「1933(昭和8)年、京都御所へ上がる方々を迎える宿として創業したと聞いています」と語るのは若女将の松井もも加さん。
「経済の成長期には曾祖父である初代がはじめた10部屋の宿を27部屋の旅館に建て替え時代のニーズに対応してきました。とき同じ頃には別館の『松井別館 花かんざし』も開館しています」
当時は団体旅行が最盛期。京都はまさしく団体旅行の最適地となっていました。
そして現代。個人旅行が主流となり、風情や情緒を味わうことが旅の大きな目的ともなり、旅館が本来持ちうる個性を改めて見直し、表現すること。そして何よりも、宿としての居心地に気を配ることが大切になり。京旅館の女将たちは日々、試行錯誤を繰り返しています。
2013年、女将の松井節子さんが先頭に立ち、数寄屋づくりの意匠を凝らした宿にリニューアル。「女将はアイデア豊富な人で、本館を数寄屋風、別館は町家風に改装し、さまざまな部屋タイプを用意。スイートにあたる特別室、ベッド仕様の和洋室、バリアフリーのユニバーサル・デザインルームなど、多様なライフスタイルに対応する宿へと進化させています」
真っ先に予約が埋まってゆくのは、坪庭付きの部屋。
「町中の宿ですし近年はマンションも増え、窓からの景色は望めないのですが、2階と5階にそれぞれ一室、庭師さんに入ってもらい坪庭を設けました」
街中での宿泊の利便さと合わせ、オーソドックスな“旅館の設え、京都の風情、そして日本の伝統”を旅行者たちは京宿に求めているようです。