中華料理 あさひの「冷やしそば」【浅草】
浅草観音裏に、高い実力に唸る町の中華料理屋がある。『あさひ』だ。店主は4代目。祖父から引き継いだ味を守りつつ、新メニューの開発にも余念がない。中華そばに肉団子、パクチーラーメンなど、どれを注文しても外れはないが、とりわけ「冷やしそば」は秀逸。ベースのタレは、鶏ガラ主体で豚骨は隠し味程度というスープに、醤油ダレを加えたもの。穏やかな酸味、ほのかな甘み、ダシの深みが見事に調和して、細くシコシコの縮れ麺に絡まる。これぞ下町中華の王道というべき味だ。クラゲのコリコリ食感もいいが、チャーシューがまた味わい深いのなんの! 店主が毎朝豚の外モモ肉をさばき、脂の多い部位を煮込んで手作りしている。同じく豚の塊肉を手切りし、9種の香辛料で味付けした肉味噌がのる「四川冷やしそば」も後引く旨さ。もともと夏季限定だった冷やしそば各種は、客の熱烈な要望で、今や通年楽しめる名物となっている。
写真:五目冷やしそば 1100円
五目”には、自家製チャーシュー、キュウリ、錦糸卵、ナルト、クラゲがのる。硬めにすっきり茹で上がった麺とともに豪快に頬張りたい。
写真:四川冷やしそば900円
担々麺の肉味噌を作っているときに「コレを冷やしそばにアレンジしたい」と考案した辛党派向けの新メニュー。肉味噌をスープに溶かしながらいただけば、豆板醤や3種類の一味唐辛子、ハバネロなどスパイスを多用した複雑な辛さ、ニンニクの香り、ふっと姿を現す玉ねぎの甘みが巧みに混ざり合い、旨さ倍増!
写真:あさひの外観
浅草寺の裏手、観光客がほとんど足を踏み入れない通称“観音裏”にある
[住所]東京都台東区浅草3-33-6 ☎03-3874-4511 [営]11時半~15時、17時半~21時 [休]月、第3火 [席]カウンター8席、テーブル12席 計20席/禁煙席なし/予約不可/カード不可/サなし [交]地下鉄銀座線浅草駅6番出口から徒歩10分 ※ランチタイム有
浅草観音裏に、高い実力に唸る町の中華料理屋がある、『あさひ』だ。店主は4代目。祖父から引き継いだ味を守りつつ、新メニューの開発にも余念がない。中華そばに肉団子、パクチーラーメンなど、どれを注文しても外れはないが、とりわけ「冷やしそば」は秀逸。[交]地下鉄銀座線浅草駅6番出口から徒歩10分 ※ランチタイム有
龍口酒家の「ゴマダレ冷やし麺」【幡ヶ谷】
爽やかなゴマダレが、翡翠色の麺に快くからむ
旬の野菜を使い、時には漢方を取り入れ、薬膳をベースとした身体に優しい中華料理が楽しめる名店。ここの冷やし麺は、美しい翡翠色が特徴。オーナーシェフの石橋幸さんが、30年ほど前に考案したクロレラを練りこんだヘルシーな麺で、喉越しも見た目も素晴らしい。まずは、1年中楽しめる人気の「ゴマダレ冷やし麺」を。自家製芝キー麻マー醤ジャンのコクと豆板醤の辛味に酢醤油が軽やかに寄り添い、クロレラ麺を口に入れたときに渾然一体となって爽やかな風を運ぶ。じっくり焼き上げたチャーシュー、食感に変化をもたらす揚げワンタンなどトッピングにも丁寧に仕事がなされ、心憎いばかりのバランスだ。
夏季限定の「香鶏酢麺」もまた涼味たっぷり。こちらは山盛りの香菜と蒸し鶏が絶妙なコンビネーションをみせる、酸味が利いた味わい。どちらのメニューにも、丸鶏やスッポンなどを煮込んで漉した薬膳スープが付き、これがまた忘れがたい美味しさ。
写真:ゴマダレ冷やし麺 1030円
芝麻醤をベースに醤油、酢、砂糖を加え、ほんの少しの豆板醤を隠し味にしている。だからこそゴマの深みがありながらもキレがいい。翡翠麺の上にのるのは、モモ肉を使った自家製チャーシュー、トマト、キュウリ、ネギ、クラゲ、揚げワンタン
写真:香鶏酢麺 1334円
上からレモンを搾り、よく混ぜて食べる。香菜の香り高さと、スパイスとともに蒸した鶏肉の濃厚な旨みがダブルで押し寄せ、食後感は爽快。酢を軸にした澄んだ味と香りをもつ、冷やし和え麺といった感じだ。9月末頃までの限定麺
[住所]東京都渋谷区幡ヶ谷1-3-1 幡ヶ谷ゴールデンセンターB1 ☎03-5388-8178 [営]11時半~14時15分、17時半~21時40分L.O. [休]月 ※第2、3火は不定期休み [席]カウンター4席、テーブル4席×8卓、6席×2卓 計48席/昼のみ全席禁煙/予約可(昼はコース注文の場合に限る)/カード不可/サなし [交]京王新線幡ヶ谷駅改札口から徒歩すぐ ※ランチタイム有
「龍口酒家」は旬の野菜を使い、時には漢方を取り入れ、薬膳をベースとした身体に優しい中華料理が楽しめる名店。ここの冷やし麺は、美しい翡翠色が特徴。オーナーシェフの石橋幸さんが、30年ほど前に考案したクロレラを練りこんだヘルシーな麺で、喉越しも見た目も素晴らしい。[交]京王新線幡ヶ谷駅改札口から徒歩すぐ ※ランチタイム有
珉亭の「冷やし江戸っ子」【下北沢】
すっきりと澄んだ醤油スープでツルッといく幸せ
うっとりするほど澄んだ甘酢醤油スープ。麺は細めで歯切れよく、上には肩ロースを使った自家製チャーシューとキュウリ、手作りしたキムチの浅漬け、刻みノリがのる。極めてシンプルなのに、すっきりとした酸味と優しく広がるキムチの風味のバランスのとれた味わいに、惹きつけられてやまない。この「冷やし江戸っ子」は、昭和39年創業の『珉亭』が通年提供している冷やし中華のひとつ。細麺をズズッと手繰れば、暑さでほてった身体に清涼感と元気がみなぎるようだ。他にもチャーシューにキュウリ、玉子と刻みノリ、紅生姜がのるオーソドックスな「冷やしそば」(800円)、「ねりごま冷やし」(850円)など、冷やし中華だけでも5種類が堪能できる。
ピンク色をした名物のチャーハンしかり、メニューのほとんどが昭和のままなら、店内も昭和の風情そのもの。下北沢で半世紀近く愛される昔ながらの味を求め、客は引きも切らない。
写真:冷やし江戸っ子 900円
醤油と酢、砂糖少々というシンプル極まりない味付け。実にさっぱりとしていて、そこにキムチの風味が加わることで一層食欲をそそる完成度の高い一品に。肩ロースを使ったチャーシューは肉がほどけるように柔らかく、キュウリとの食感のコントラストもいい
写真:チャーハン 800円
冷やし中華と並ぶ店の名物メニュー。赤く煮たチャーシューが縁起物だった昔の名残りで、今もチャーハン専用の赤いチャーシューを店で作っている。卵とネギとともに見事なスピードで炒められたピンク色のお米を頬張ると、どこか懐かしく優しい味わい。ファンが多いのも納得
[住所]東京都世田谷区北沢2-8-8 ☎03-3466-7355 [営]11時半~23時半 [休]月(祝の場合は営業、翌日休み) [席]1階:カウンター12席、テーブル席8席 2階:座敷最大40席 計60席/禁煙席なし/2階席に限り平日のみ予約可/カード不可/サなし [交]京王井の頭線ほか下北沢駅南口から徒歩4分 ※ランチタイム有
「冷やし江戸っ子」は、昭和39年創業の『珉亭』が通年提供している冷やし中華のひとつ。ピンク色をした名物のチャーハンしかり、メニューのほとんどが昭和のままなら、店内も昭和の風情そのもの。下北沢で半世紀近く愛される昔ながらの味を求め、客は引きも切らない。[交]京王井の頭線ほか下北沢駅南口から徒歩4分 ※ランチタイム有
徒歩徒歩亭の「涼麺」【四ツ谷】
味の決め手はダシの利いた冷製スープ
“美味しいを生み出す実験厨房”として『徒歩徒歩亭』はオープンした。それだけに、冷やし中華も意欲作だ。5月中旬~9月頃まで登場する「涼麺」は、なみなみと注がれた冷製スープが印象的。口に含むと酸味はあるが、いわゆる冷やし中華のそれとは違う。鶏ガラと豚骨でダシをとったスープを軸にしているため、コラーゲンたっぷりでややとろみがあり、ダシが香る涼やかな味わいに感服する。
中細麺の上には、豚バラやオクラ、カイワレのほか、白髪ネギやもみじおろしといった和素材ものり、トッピングも個性的だ。さらに、揚げたワンタンの皮の食感がアクセントになって食べ飽きさせないし、もみじおろしがスープになじんでくると心地よい辛さが駆け抜け何とも楽しい。毎年、この一杯を待ちわびるファンが多いのも頷ける。
写真:涼麺 1200円
豚バラスライス、エノキ、オクラ、カイワレ、白髪ネギ、揚げたワンタンの皮など具材が満載。上にのせたもみじおろしもいい仕事をしてくれる。量は多いが、独り占めしたいくらいの絶品だ
写真:涼つけ麺 1200円
通年楽しめるメニュー。つけダレは、昆布、サバ節、鰹節などからダシをとり、カエシを合わせたもの。真空低温調理して仕上げた具の塩チャーシューがこれまた旨い
[住所]東京都新宿区三栄町9-26 鈴木ビル1階 ☎03-5269-7717 [営]11時半~14時半LO、17時半~21時半LO [休]日・祝 ※土曜は早仕舞い&不定休があるため来店前に要確認 [席]テーブル席34席/全席禁煙/夜のみコースに限り予約可/カード不可/サなし [交]JR中央線ほか四ツ谷駅四ツ谷口から徒歩約7分 ※ランチタイム有
“美味しいを生み出す実験厨房”として「徒歩徒歩亭」はオープンした。それだけに、冷やし中華も意欲作だ。5月中旬~9月頃まで登場する「涼麺」は、なみなみと注がれた冷製スープが印象的。[交]JR中央線ほか四ツ谷駅四ツ谷口から徒歩約7分 ※ランチタイム有
萬福の「冷やしそば(とりごま味)」【東銀座】
鶏モモ肉を盛り付けた豪華な1杯!
創業は昭和4年。戦前から冷やし中華を出しており、当時は玉子、ナルト、チャーシューをのせたものだったという。現在は、具材は違えど昔から変わらぬ甘酢醤油味と、夏季限定の鶏ごま味の2種類を提供している。
鶏ごま味は、約20年前から夏の新定番になった。鶏モモ肉を、チャーシューの漬け込みダレで煮込み、スライスしてその日のうちに使い切る。「鶏肉は鮮度が大事。特別なことは何もしていないんです。一つひとつ手作りしているだけ」と、3代目の久保英恭さん。豪快に盛られた鶏肉は、柔らかくしっとり。下に敷かれた錦糸卵やキュウリ、ゴマを炒ってから丁寧に擂ってペースト状にした手作りのゴマダレとバランスよくまとまり、程よい辛味も相まって、箸が止まらない。正統派の甘酢醤油味ともども、今夏にご堪能あれ!
写真:冷やしそば(とりごま味)990円
見た目にもインパクトある夏季限定メニュー。濃厚なタレかと思いきや、ゴマの風味とラー油の程よい辛味が立ち、食後は爽快だ。5月中旬~9月末頃まで、数量限定で楽しめる
写真:冷やしそば(醤油味) 990円
チャーシュー、モヤシ、錦糸卵、てっぺんには紅生姜がのる。これぞ正しき冷やし中華のスタイル。麺は1.5玉。細麺をすすると、絶妙な酸味と甘みがのどを通り過ぎて快い
[住所]東京都中央区銀座2-13-13 ☎03-3541-7210 [営]11時~15時半、17時~22時半 [休]日・祝 [席]カウンター7席、テーブル席20席 計27席/昼のみ全席禁煙/予約不可/カード不可/サなし [交]地下鉄日比谷線など東銀座駅3番出口から徒歩2分
コラム:闘い続ける美味「冷やし中華」発祥の地はどこか?
冷やし中華は、中国料理ではなく日本独自の料理だ。しかし、その発祥の地に関しては定かではないよう。有力なのは、東京・神保町『揚子江菜館』と宮城県は仙台市の『龍亭』の2説。今も営業している2つの店舗がバトルを繰り広げている……かといえばそうではなく、それぞれのファンが「こっちが先だ!」とライバル意識を燃やしているようなのである。
さて、『揚子江菜館』では発祥は昭和8年としている。正式名称は「五色涼拌麺(ごもく冷やしそば)」。上海料理の涼拌麺とざるそばをヒントに、富士山のビジュアルをイメージして二代目店主が考案したそうな。細切りにした様々な具材を放射状に盛り付けた、この“富士山型”が冷やし中華の原型といわれている。
一方、仙台『龍亭』の発祥は昭和12年。夏に客足が遠のく状態を打破するために作ったのが「涼拌麺(りゃんばんめん)」。鶏ガラスープをベースに醤油、酢を加え、さっぱりとした味に仕上げた。『揚子江菜館』のまろやかな甘酢に比べ、こちらはより酸味が利いたすっきりタイプ。味に関してみれば、現在の冷やし中華は『龍亭』の流れを汲んでいる気がしなくもない。どちらにせよ、間違いないのは、両店とも冷やし中華の食文化を盛り上げてきたことだろう。
最近では、地域によってもスタイルは様々。マヨネーズをかける名古屋流をはじめ、香川県ではレモン果汁入りのタレ、広島呉市では平打麺が一般的など、地域ごとにバリエーションも増えている。いずれご当地対決に発展する日も近いかもしれない。
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