東京・御茶ノ水の予備校に通っていた“カレ”
現在の自分に満足できている人は、過去も楽しかったり、なつかしかったりなど、肯定的な思い出にできる。現在に満足できない人には、過去も辛いことばかりとなってしまうことが多い。
ぼくが恋の達人と思う松任谷由実~ユーミンが、過去の恋の思い出を語り出した時、その眼は懐かしそうに、しかし輝いていた。
“初恋は、恥ずかしいくらいに哀れだったわね”
そうユーミンは語り始めた。
それは、ユーミンが中学3年生の時だった。美術大学を目指していた彼女は、実家のある東京・八王子から、夏休みの間、御茶ノ水にあった美大志望者のための予備校に通っていた。
“その予備校は、高校3年生が主体で、私のような中学生はほかにいなかったの。そこで、名前も知らない3級上の高校生に恋をしてしまったの。自分から声を掛けるなんて、絶対にできないから、彼の近くで、彼の横顔を見ながら、デッサンを続ける日々が続いたの。八王子から毎回ドキドキして出掛け、毎回シュンとして御茶ノ水から帰る日々だった”