作家の村上春樹さんから寄託・寄贈された蔵書やレコードなどの資料を展示し、「村上ワールド」を間近に体感できる「早稲田大学国際文学館」(通称・村上春樹ライブラリー)が2021年10月1日にオープンする。村上作品や国際文学などの研究をはじめ、文化交流の拠点ともなる。国立競技場の設計でも知られる建築家の隈研吾さんが手掛けた館内は木の温もりが感じられ、やわらかな雰囲気が漂う。資料の閲覧だけでなく、村上さんの書斎が再現されたほか、ハイエンドなオーディオでLPレコードを聴くことができ、カフェではコーヒーや料理も味わえる。ジャズ喫茶の店主から世界的な作家となり、膨大なレコードの収集でも有名な村上さんの魅力を五感で楽しめる殿堂だ。
学生時代に通っていた演劇博物館に隣接 隈研吾さんが設計、費用をファストリの柳井正会長兼社長が全額寄付
9月22日、早稲田大学早稲田キャンパスの国際会議場井深大記念ホール。村上春樹ライブラリーの開館記者会見に出席した村上さんは「早稲田大学の新しい文化の発信基地みたいになってくれれば。大学の中での、フレッシュで独特なスポットになってほしい」と、母校に開設された施設について思いを語った。
村上春樹ライブラリーは、東京・西早稲田の早稲田キャンパス内にある。坪内博士記念演劇博物館に隣接する4号館が、隈研吾さんによって改装された。地上5階、地下1階の構成。5階が館長室や事務所で、3~4階は研究エリア、地下1~地上2階が一般に開放されたエリアとなる。入館無料で、今年度は新型コロナウイルス感染対策のため事前予約制。この演劇博物館は、村上さんが学生時代によく通って「古いシナリオを読んでいた」(2018年11月の記者会見より)という縁の深い場所でもある。
東京オリンピック・パラリンピックの開会式や閉会式などが開催された国立競技場をみてもわかるように、隈さんは木材を生かした設計でも知られる。村上春樹ライブラリーの内装には木が多用され、入り口から周囲にも独特の流線形が美しい木と金属のトンネルが配置されている。外観、内観とも温かみのある印象だ。
改装の費用約12億円は、ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の寄付によって全額賄われた。早大OBでもある柳井さんが、ライブラリーの意義に賛同したという。
階段の読書スペース、両壁面が地下1階から地上2階まで高さのある「階段本棚」
記者会見に先立って先週行われた内覧会で、ライブラリーの一般エリアを見学することができた。順を追って紹介していこう。
入り口のトンネルの庇を抜け、館内に足を踏み入れると、地階に続く美しい木の階段が目に入る。地下1階から2階まであるアーチ型の吹き抜けの形状が開放的な雰囲気を醸し出す。まるで外観のトンネルが続いているような感覚にもなる構造。しかも、壁面が両側とも書棚という構成だ。
来館者は、まずこの「階段本棚」に出迎えられる。ライブラリーの顔とも言うべき、最も象徴的な空間だ。書棚は階段を下りた両側の壁面にも続いている。約1500冊が現時点で並んでいるという。
階段をよく見ると、下に向かって右と左では、ステップの“数”が違う。実際の上り下りは右側で、左は腰を下ろして読書をするスペースとなっている。