現在の書斎を再現 村上さん寄贈のレコードプレーヤー「DENON DP-3000」も展示
カフェの奥、階段本棚を挟んでラウンジの反対側が「村上さんの書斎」だ。家具などの一部は異なるが、現在の仕事場が再現されている。椅子は書斎と同じ製品で、机の素材やソファ、絨毯は似たものを用意したという。椅子の一部は、やはりウェグナーのものだった。
壁面には、レコード棚が設えられており、村上さんのレコードが今後、順次並べられる。
通常は室内に自由には入れないが、内覧会では中の一部を確かめることができた。気になったのが、置かれていたオーディオだ。3種類あって、これも書斎と同じ製品。アンプはマランツ、CDプレーヤーもマランツ製だが、今となっては珍しいMDも再生できる。ランニング時などにMDを愛聴していた村上さんらしいセレクトだ。
レコードプレーヤーは、「DENON DP-3000」。これが、一番興味深かった。個人的なことを明かすと、自分もモデルは違うが、40年近く「デンオン」(現在はデノン)のレコードプレーヤーを買い換えながら使い続けている。DP-3000の発売は1972年で、当時の価格は4万3000円。大卒初任給並みの高級品だ。デノンの公式ブログによると、「納品まで何ヶ月もお待たせしたという伝説があるほどの大ヒットを記録」とある。オーディオファンの間で今も語り継がれる銘機の中の銘機だ。
2階展示室では「建築のなかの文学、文学のなかの建築」
見学の順序に沿って、地下1階から地上2階へ。階段本棚を挟んだ片側が展示室となっており、10月1日の開館日から始まる「建築のなかの文学、文学のなかの建築」(2022年2月4日まで)がすでに用意されていた。
ライブラリーの100分の1模型のほか、設計図などが掲示され、「旧4号館」が「村上春樹ライブラリー」にリノベーションされていく過程やコンセプトが、わかる構成だ。
説明文によると、「外部トンネルは当館にとって大切な顔。現在の金属と木を組み合わせた案の前には、金属のみのバージョンも案にあがっていました」という。
隈研吾さんが考える「トンネル」 「村上さんの小説を読み始めると、僕はトンネルの中に吸い込まれていくような感覚を味わう」
設計者の隈さんのコンセプトは、地下1階の本棚に掲示されてあった。「トンネルとしての建築」と題されたメッセージには、次のように記されている。
「村上春樹さんの小説によって、どれだけ多くの人が救われたのだろうか。そういう僕も、村上さんの小説で救われた一人である。村上さんの小説を読み始めると、僕はトンネルの中に吸い込まれていくような感覚を味わう。その体験は突然にやってきて、そのトンネルの入り口は、この見慣れた日常の世界の中に、突然にぽかんとあいている。トンネルは、奥へ奥へといざない、最後のページを閉じると、また突然に日常に放り出される。その時の僕は、穴に吸い込まれる前の僕とは全く別の人間になっている。そんなトンネルのような建築を作りたいとずっと考えてきたが、いつも建築がトンネルになれるわけではない。しかし今回は本物のトンネルができた。何しろ春樹さんとの共同作業だからである」
この言葉を反芻した後で、トンネルや階段本棚を改めて眺めてみる。それらは、当初と違った色彩を伴って心に迫ってくる。
(後編に続く)
「早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)」の情報
[住所]東京都新宿区西早稲田1-6-1 ※早稲田大学早稲田キャンパス内
[開館時間]10時~17時
※新型コロナウイルス感染対策のため2021年度は事前予約制
※事前予約は同館サイトから https://www.waseda.jp/culture/wihl/
[休館日]原則水曜日 ※最新の開館日程は、同館サイトでご確認ください
[入館料]無料
[交通]JR山手線・西武新宿線高田馬場駅から徒歩20分、地下鉄東西線早稲田駅から徒歩7分、地下鉄副都心線西早稲田駅から徒歩15分
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