年末には名古屋のご当地鍋「ひきずり鍋」を食べて、新たな気分で新年を迎えよう!
北海道の石狩鍋や東京の柳川鍋、福岡の水炊きなど、全国には個性豊かな鍋料理がある。 全国的にまだ知名度は低いものの、名古屋にもご当地鍋があることをご存じだろうか? 1つは鶏肉(または名古屋コーチン)の味噌鍋。 鶏ガラスープに豆味噌ベースのタレをくわえて鶏肉や野菜を煮込んだ鍋だ。 実はこれ以外にご当地鍋がもう1つある。
それが「ひきずり鍋」だ。 最近、鶏料理店でも見かけるようになったが、10年以上前はひきずり鍋を食べられる店がほとんどなかった。 では、昨今の名古屋めしブームを受けて、誰かが新たに作り出した鍋かというと、そうではない。 愛知県西部の尾張地方を中心に、戦後間もないころまで食べられていたものを復刻したのだ。
名古屋市千種区内山にある『とり日和 今池店』も、ひきずり鍋を出している店の1つ。
ここの「ひきずり鍋」(1500円)がこちら。 鶏の水炊きと違って、つゆが少ない。 それもそのはず。 ひきずり鍋とは、牛肉の代わりに鶏肉を使ったすき焼きなのだから。 その名前の由来だが、店主の伊藤彰浩さんによると、 「食べる際に鶏肉を鍋の底をひきずるからとか、後を引く旨さだからとかさまざまな説があります。 私の親の世代は、『過去をひきずらないように』と、大晦日の夜に食べる縁起物だったようです」とのこと。 なぜ、私がこの時季にひきずり鍋を紹介したのかが、おわかりいただけるだろう(笑)。
鶏肉は愛知県奥三河産をはじめ、国産鶏のもも肉を使用。 ネギと厚揚げ、椎茸、カマボコも入る。 つゆは醤油とみりん、味噌、砂糖、塩、酒などを使い、名古屋人好みの甘辛い味付けに仕上がっている。 煮込むほどに鶏の旨みが染み出して、どんどん旨くなる。
鶏肉や野菜に、つゆの色が染まったころが食べごろ。 噛むごとにつゆの深いコクとジューシーな肉の旨みがジュワッと広がる。 無性に米が喰いたくなる衝動に駆られるが、ここはグッとガマン。 口の中にいつまでも残る味の余韻をビールやハイボールで流し込む。 リセットされたら、再び食べる。 そして、また飲んで、食べる。 牛肉と違って、あっさりしているので、いくらでも食べられるのが魅力だ。
生卵も付いてくるので、牛肉のすき焼きのように溶き卵に絡めて食べても旨い。 鍋は単品のほか、焼き物や揚げ物などが付く全6品の「ひきずり鍋コース」(3500円)も用意している。 コースの場合、〆にご飯が付くので、残った溶き卵を鍋に入れて、玉子丼にして食べるのをおすすめしたい。 それにしても、なぜこんなにも旨い郷土料理が食べ継がれなかったのか。 「昔はどの家も鶏を飼っていて『ひきずり鍋』には、自宅でさばいた鶏肉を使っていたと思うんです。 実際、それがきっかけで鶏肉が嫌いになったという方は、私の親世代には多いですからね。 それで作らなくなって、途絶えたのではないかと思います。 鶏肉でもこんなにもおいしいすき焼きができるんだということを伝えたくて、メニューにくわえたんです」(伊藤さん) 新しい年を新たな気持ちで迎える縁起物として、ひきずり鍋を堪能しようではないか。
永谷正樹(ながや・まさき) 1969年生まれのアラフィフライター兼カメラマン。名古屋めしをこよなく愛し、『おとなの週末』をはじめとする全国誌に発信。名古屋めしの専門家としてテレビ出演や講演会もこなす。
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