チャーハンとラーメンのセット、略して“チャーラー”。愛知で親しまれるこのセットメニューを愛してやまない現地在住のライター・永谷正樹が、地元はもちろん、全国各地で出合ったチャーラーをご紹介。セットのチャーハンの美味しさに疑問を感じた永谷さんが向かったのは、愛知・一宮にあるチャーハン専門店のチャーラーでした。
画像ギャラリーチャーラーの旅を続ける中で気が付いたことがある。それは、セットのラーメンは大きなハズレがないということ。ラーメン店の場合、ラーメンがメインなので旨いのは当たり前だ。中華料理店でもシンプルな醤油ラーメンがマズイなんてことはほとんどない。おっと、それはちょっと言い過ぎたかな。美味しくはないけど、食べられるというレベルね。
本当に美味しいチャーハンが食べたい
その一方、チャーハンに関しては違う。きちんと作っていないチャーハンがいかに多いことか。ラーメン店にとってはサイドメニューにすぎないし、中華料理店でも利益の少ないセットメニューのひとつである。チャーハンは力を入れるべきメニューではないかもしれない。
しかし、そんなことは客にとって関係ない。お金を払った以上は美味しいチャーハンが食べたい。そこで、チャーハンに定評がある店の記憶を辿り、愛知県一宮市にある『チャーハン専門店 金龍』に行き着いた。ここには何度も食べに行っている。たしかサイドメニューにラーメンもあったはずだ。ってことで、今回は、チャーハン専門店のチャーラーをレポートする。
『チャーハン専門店 金龍』は、2020年の6月に名鉄名古屋本線妙興寺駅の近くに第1号店の一宮妙興寺店を開店(現在は、蟹チャーハン専門店『蟹チャーハン紅龍』として営業)。そして、2021年2月には一宮森本店をオープンさせた。今回は、その一宮森本店へ向かった。
チャーハンは、ガツンと豚の旨みが口の中で弾ける「金の豚チャーハン」(並盛600円)の他、具材が卵のみ、味付けは塩のみのシンプルな「すっぴん」(並盛450円)や、夜限定でひつまぶしのように薬味やダシ汁で味変が楽しめる「龍の鶏チャーハン」がある。この3種類のチャーハンを基本に季節限定のチャーハンも数種類用意している。
メインでもおかしくはないサブメニュー
一方、サイドメニューに目をやると、麺類は「昔ながらの中華そば」(並盛550円・小盛450円)と「こだわりの鶏塩そば」(並盛700円・小盛550円)の2種類。たしか、オープン当初は「昔ながらの中華そば」のみだった。
「こだわりの鶏塩そば」は後発だけに、チャーハンとの相性を研究して作られているかもしれない。そこで、「こだわりの鶏塩そば」(小盛)と、「金の豚チャーハン」(並盛)を注文することに。
まず、運ばれたのは「こだわりの鶏塩そば」(小)。具材は、鶏ムネ肉のチャーシューとナルト、メンマ、海苔、ネギ、カイワレ。まずは、スープをひと口。おっ、和風ダシも入っているのか、深いコクがある。鶏の水炊き鍋の〆に食べるラーメンっぽい。
麺は、中太のストレート麺。弾力があって、麺に染み込んだスープがこれまた旨い。そこらの鶏塩ラーメンよりも確実に旨い。サイドメニューにするにはもったいないほど完成度が高い。いや、マジで。
おっと、ふた口ほど食べたときに「金の豚チャーハン」(並盛)が運ばれた。口の中にはまだ鶏塩そばの味が残っている。すかさずチャーハンにレンゲを突っ込んで頬張った。うっ、旨ぇ……。何なんだ、この一体感は!? 口の中で鶏の旨みと豚の旨みが複雑に絡み合って、ひとつにまとまっている。もう、たまらんっ!
そもそも、「金の豚チャーハン」が旨すぎるのだ。初めて食べたとき、あまりの旨さに悶絶したほど。口の中いっぱいに広がる香ばしさと複雑な味わい。そして、食感。しっとりとパラパラのちょうど中間、“しとパラ系”とも呼ぶべきか。
本店の一宮妙興寺店に行ったときは、カウンター席から厨房が見えるので、チャーハンを作るところをチェックしたことがあった。塩やコショウ、タレなどチャーハンに用いる調味料が1食分ずつ小さな計量カップに入れられていた。つまり、決められたレシピ通りに作っているのである。
ところが、中華料理店やラーメン店の多くはチャーハンを作る際、調味料は目分量。同じ店でも訪れた日によって味が違うことがあるのはそのためだ。ちなみに私はカメラマンでもあるが、カメラの絞りやシャッタースピードが目分量ではとても撮影することができない。遊びで撮影するならともかく、仕事では必ず露出計を使う。それと同じことだ。
チャーハンが美味しい中華料理店は何を食べても美味しい。といわれる。それは目分量ではなく、決められたレシピ通りに作っているからだろう。チャーハン専門店が人気を集めていることに中華料理店はもっと危機感を持った方がよいと思う。
取材・撮影/永谷正樹
画像ギャラリー