農林水産省の定義 答えは、(3)の「ぶどう」です。 農林水産省は、くだものを「果樹」と呼び、「概ね2年以上栽培する草本植物(いわゆる「草」)及び木本植物(いわゆる「樹木」)であって、果実を食用とするもの」と定義しています…
画像ギャラリー「おとなの週末Web」では、食に関するさまざまな話題をお届けしています。「『食』の三択コラム」では、食に関する様々な疑問に視線を向け、読者の知的好奇心に応えます。今回のテーマは「くだもの」です。
文:三井能力開発研究所代表取締役・圓岡太治
「トマトは野菜である」
「トマトは野菜かくだものか?」という論争は昔からあり、アメリカでは1893年に裁判にまでなりました(「トマトは野菜である」との判決)。日本の農林水産省はトマトを「野菜」と分類していますが、トマトは果実であるため、くだもの(果物)と分類する国もあります。このように、野菜かくだものかを明確に分類するのが難しい作物がトマトのほかにもあります。
さて、農林水産省は、くだものを「果樹」と分類していますが、次のうち「果樹」に該当するものはどれでしょうか?
(1)いちご
(2)メロン
(3)ぶどう
農林水産省の定義
答えは、(3)の「ぶどう」です。
農林水産省は、くだものを「果樹」と呼び、「概ね2年以上栽培する草本植物(いわゆる「草」)及び木本植物(いわゆる「樹木」)であって、果実を食用とするもの」と定義しています。また、「野菜」を「食用に供し得る草本性の植物で、加工の程度の低いまま副食物として利用されるもの」と定義しています。
分かりやすく言うと、2年以上栽培される樹木などから毎年収穫される果実は「果樹」(くだもの)、作付けして1年以内に収穫されるような樹木ではない作物は「野菜」と分類しているのです。
したがって農水省の分類では、ぶどうはくだもの(果樹)で、いちごとメロンは「栽培方法が苗を植えて1年で収穫する点で一般的な野菜と同じなため、野菜としての取扱い」となっています。
(参考)
[1] 果樹とは(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/fruits/teigi.html
[2] 野菜の定義について(独立行政法人 農畜産業振興機構)
https://www.alic.go.jp/content/000093223.pdf
「野菜」とは何か
なぜこのような混乱が起こるのでしょうか?その大きな理由は、食生活上の分類と、生物学的な分類や農業生産上の分類とが、必ずしも一致しないためです。
食生活においては、野菜は「食事のおかずとして食べるもの」、くだものは「食後のデザートやおやつとして食べるもの」というイメージがあります。これはスイーツ(甘いもの)に近い感覚です。この感覚で言うと、いちごやメロンを「くだもの」と考える人は多いのではないでしょうか。
しかし生物学では、「甘いかどうか」という人間の味覚は、分類の基準にはなりません。生物学の分類の基準は、「樹木かどうか」「果実かどうか」といったことです。また、農業生産上は、「一年で収穫されるかどうか」ということのほうが、「甘いかどうか」よりも重要なことなのです。
野菜というのも、生物学上の分類ではなく、食生活上の分類です。野菜というと、『菜』という漢字から、キャベツやホウレン草などの「葉物」のイメージが強いかもしれませんが、実は葉だけでなく、根や茎など、様々な部位が「野菜」として食されています。そしてその中には、トマトやきゅうりのように、果実もあるのです。
農水省は野菜を、「葉菜類」「茎菜類」「根菜類」「果菜類」の4つに大別しています。
以上のような理由から、農水省の分類では、いちご、メロン、すいかなど、一般にはくだものと認識されているものが『野菜』とされ、アボカドのように、一般にはくだものとはみなされないものが『果樹』とされています。
しかし、この分類はどちらが正解というものではなく、分類の目的や基準によって変わるものなのです。
(参考)
[3] 野菜の分類を見てみよう!(農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/syokuiku/s_edufarm/kyouzai/pdf/sai_s_05.pdf