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本を借りられない鵜沢氏に救いの手が!

こうなると人間はがんばって思案するものである。腕を組みながら俺の頭に浮かんだ案は以下の通り。

【解決策】

  • その1:福地さんがよそ見している隙に、そっと本を持ち出す。
  • その2:発行元の小学館の編集部に何気なく立ち寄ったふりをして、がんばって本棚から探す。
  • その3:このまま無理して立ち読みを続行。
  • その4:ネットで検索してアマゾンで購入。

断じて違~う!! 無断持ち出しなど論外だし、発覚したらマグロ包丁で五枚におろされたうえに磔獄門、しかも出禁である! 小学館に行くことも考えたが、だが~っ、だがである、こちとら今すぐ読みたいのである。今すぐにだ!! 俺は小さい声でブツブツと独り言を、まるで呪文のように唱えていると、後ろから天使の野太い声が聞こえてきた。

「鵜澤君じゃないか、ここで何をしていてるんだい?」

この声には聞き覚えがある、神様、仏様、黄門様、いや違った。

文久元年(1861年)から8代続くマグロ仲卸「樋長(ひちょう)」の会長、飯田氏の声だ。 

まさしく地獄にマグロ、じゃなかった、仏とはこのことだ。

「飯田会長、お久しぶりです!」。俺は詐欺師のような満面の微笑みを浮かべて会長の目を見た。

「……何か、困っていることがあるようだな」

俺は激しくうなずきながら、会長にすがるように話を始めた。

「そうなんです、よくぞ声をかけてくださいました! 会長のところは銀鱗会の会員ですか?」

あぁ、そうだよ。今日も福地さんに用があってきたんだが……」

俺は、まさに天にも昇る気持ちである。

「会長、実はこの本が借りたくて……でも俺、会員じゃないからちょっと。そこで会長にこの本を借りていただきまして、で、それを今度は僕にまた貸していただけないでしょうか?

「くぉら! そこのカメラマンの鵜澤君、本の又貸しはダーメ、ダメだから」。福地さんが目を三角にしてコチラを睨んでいる。

あっ、しまった、少し声が大きすぎたか! そらぁ、福地さん怒るわなぁ~。

「まぁまぁ、福地さん。彼のことは、俺が責任を持つから本を貸してやってくれないか」。会長からの力強いお言葉。福地さんすみませ~ん、そういうわけで本貸してくださいな。

うぉ~である、まさに魚~だ。

ダニエル・クレイグのジェームスボンドのように危機を乗り越えた俺は、意気揚々と本を手に入れ事務所に引き返えそうとした

すると会長が俺に言った。

「鵜澤君、ちょっとコーヒーでもつきあいたまえ!」

おろっ、これは世に言う説教を受ける雰囲気である。本を借りるのを助けていただいた手前逃げるわけにもいかない。俺は神妙な心持ちで、6街区水産仲卸売場棟3階の飲食店舗エリアにある喫茶『岩田』のカウンターに座った。

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説教の最中、ピラフにタコを追加!?...
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鵜澤 昭彦
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