一献傾けたくなること間違いなし!「蕎麦前」が旨い東京の蕎麦店5選

『勢揃坂 蕎 ぎん清』 @外苑前 実力派蕎麦屋は夜こそ真骨頂! 「夜は蕎麦を食べに来なくてもいい」なんて言うから驚いた。フレンチのシェフとバーテンダーの経験を持つご主人が作る蕎麦前は、つまみと呼ぶよりも佳肴と呼びたくなる…

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蕎麦屋のメインと言えばもちろん蕎麦。けれども蕎麦より前に楽しみたい一品料理からも目が離せない!定番から、創意が光るオリジナルメニューまで……蕎麦前が旨いお店を集めました。

粋な江戸っ子文化 蕎麦前という楽しみ

蕎麦前で飲(や)る。魅力的な響きである。ご存知のように江戸っ子の粋な蕎麦の楽しみ方として生まれたのが蕎麦前だ。注文を受けてから蕎麦を打っていた江戸時代の蕎麦屋では、蕎麦が出てくるまでに時間がかかる。

そこで江戸っ子はちょっとしたつまみで酒を飲みつつ蕎麦を待った。さっと飲んでさっと蕎麦を食べたら去る。その潔さが江戸っ子たちの粋だった。いやあ、かっこいい。

この「粋」に憧れて、蕎麦屋で酒を飲んでいるとなんだか大人になったような気がしてくる。しかし「粋」にはルールがつきもの。私なぞはついつい飲みたい酒が多くあり長居してしまうが、「蕎麦屋で長っ尻は野暮」なんて言葉もある。実際はどうなのか。

今回取材した店の店主たちに聞くと、皆口を揃えて「決まりはない」と言う。メインの蕎麦をおいしく食べて欲しいのはもちろんだが、それを除けば、好きに飲んでもらうのが一番。自由でいいと。良かった!!

板わさ、蕎麦味噌、天ぬき、玉子焼き、鴨に焼鳥、さらに季節の惣菜たち。選り取りみどりの料理たちから好きなものを選び、好きな酒と楽しむ。今日はどんな組み合わせで飲ろうかと考えるだけでワクワクする。

『さ和長』 @広尾

メニューに並ぶ一品料理は50種類以上。築80年〜90年にもなる趣深い建物の中は庶民的でくつろげる一方、料理はどれもレベルが高い。

玉子焼 1000円、板わさ 700円、焼き味噌 1000円、鴨焼き 1500円

『さ和長』玉子焼 1000円 板わさ 700円 焼き味噌 1000円 鴨焼き 1500円 焼き付きの板わさは香ばしく酒に合う!

それもそのはず、料理を手がけるのは日本料理で修業を積んだ職人。玉子焼きはふわっとしているのに中はシルキー、蕎麦味噌は甘みと塩気のバランスが良くまろやか、鴨焼きは香ばしさの中に柚子皮が清涼感を加えている。それぞれが丁寧に、手間暇かけて作られた味がするのだ。これらをつまみに飲む喜びよ……。さあ今日はあなたも蕎麦前を楽しもう!

【蕎麦前の作法1】

「日本酒はどんな食材にも合う」とは店長の大原さんの言。同店では飲みはじめに最適な「武勇」のスパークリングから季節のひやおろしまでと、取り揃えが豊富。何を飲もうか迷った時には、とりあえず日本酒を飲んでみるべし

『さ和長』

[住所]東京都港区南麻布5-15-11
[電話]03-3447-0557
[営業時間]11時半〜14時、17時半〜21時半(土・日は〜21時)
[休日]祝
[交通]地下鉄日比谷線広尾駅1番出口から徒歩1分
※年末は28日まで営業(年越し蕎麦のテイクアウトあり[要予約])。年始は4日〜

『おそばの甲賀』 @西麻布

旬の味で満たされる蕎麦前コース

季節を楽しむのも江戸の粋というものだ。コンクリートジャングルで暮らしていると、つい四季の移ろいが目に入らなくなってしまうが、同店にくれば季節感を存分に味わうことができる。

例えば4品から成る蕎麦前コース。この日は今の時期、特に香り良く柔らかい春菊のおひたしや板わさでお酒を飲み始め、お腹が動き始めたところに旨みと塩辛さがまた酒に合うカラスミ蕎麦、お次にエビの天吸いのあつあつツユをずっと啜り、歯切れ良いマグロの山かけでちょうど酒を飲み切ったころにコースが終了。

蕎麦前コース 3300円

『おそばの甲賀』蕎麦前コース 3300円 前菜3種盛り (奥)カラスミ蕎麦 蕎麦前コースの4皿

そして最後にはまさに旬を迎える牡蠣の蕎麦をいただく。ぷりぷりの身にまとった衣はさくっと香ばしく、しっとりツユを吸ってもそれがまた旨い。店主の甲賀さんは「四季に沿った食材を使うことでお客さんに満足してもらいたい」と言う。

その粋な心遣いで、コースのうち3品は季節ごとに食材が変わり蕎麦もまた同様に変化する。その心意気に、その味に、今宵は胸がいっぱいで帰宅できそうだ。

【蕎麦前の作法2】

「やっぱり一番食べてほしいのは蕎麦」と店主の甲賀さん。蕎麦前コース以外にも魅力的なメニューを前に、つい食べ過ぎてしまいそうになるがそこは我慢! 〆の蕎麦のために余力を残しながら蕎麦前を楽しもう

『おそばの甲賀』

[住所]東京都港区西麻布2-14-5
[電話]03-3797-6860
[営業時間]11時半〜14時半(14時LO)、17時〜20時半(20時LO)
[休日]火・水
[交通]地下鉄日比谷線ほか六本木1C出口から徒歩10分
※年末は31日まで営業(年越し蕎麦のテイクアウトあり)、年始は5日〜

『そば季寄 武蔵屋』 @代々木上原

昔ながらの蕎麦屋を居心地よく進化

蕎麦前で個人的に欠かせないのは、居心地の良さ。特にひとりの時は周りが騒がしくてもゆっくり酒を飲めないし、かと言って上品すぎるとそわそわしてしまって落ち着かないのだ。そんな方に朗報。ひとり蕎麦前飲みに最適な店が代々木上原にあった。

創業70年になり「昔ながらの蕎麦屋」と自らを称する同店だ。メニューにはよく親しんだ家庭的な料理が並び、それにもほっとするのだが、何より何を頼んでも旨いという安心感がいい。

牡蠣フライ 880円、お造り三点盛り 2310円、焼き鳥(タレ) 990円、茄子の揚げびたし 550円

『そば季寄 武蔵屋』(左奥から時計回りに)牡蠣フライ 880円 お造り三点盛り 2310円 焼き鳥(タレ) 990円 茄子の揚げびたし 550円 奇をてらわず、丁寧に作られた料理たち

季節限定の茄子の揚げびたしは優しいダシが染みてジューシー、刺身はその日の朝に豊洲から仕入れているだけあり新鮮そのもの。カキフライもカリッと食感はもちろん身がプリッと濃厚、焼鳥などは塩麹でしっとり柔らかく味はよく染みていて皮目は香ばしい。

しかも、混在時でなければ、ベテラン女将がそれらの料理を出す順番まで、実に良い塩梅で調整してくれる。身も心もまかせ切って酒と料理に浸ることができるのだ。どうやらまた通いたい店を発見してしまった。

【蕎麦前の作法3】

「蕎麦前をゆっくりいただきたい方はお声がけください」と話す店主の成田さん。通常はお料理が出来次第提供しているが、調整も可能とのこと。のんびり蕎麦前を楽しむなら店とのコミュニケーションも大事だ

『そば季寄 武蔵屋』

[住所]東京都渋谷区上原1-22-3 むさしビル1階
[電話]03-5478-0766
[営業時間]11時半〜15時、17時〜21時半(21時LO)
[休日]日
[交通]小田急線代々木上原駅東口から徒歩2分
※年末は31日まで営業(年越し蕎麦のテイクアウトあり[要予約])。年始は6日〜

『勢揃坂 蕎 ぎん清』 @外苑前

実力派蕎麦屋は夜こそ真骨頂!

「夜は蕎麦を食べに来なくてもいい」なんて言うから驚いた。フレンチのシェフとバーテンダーの経験を持つご主人が作る蕎麦前は、つまみと呼ぶよりも佳肴と呼びたくなる品々だ。

豆腐の味噌漬けは濃厚な旨みにトッピングの生カラスミがさらに味を深め、だし巻き玉子は品の良い甘さのダシがとろっとぷるっと巻かれた卵の味を引き立てる。鴨の蕎麦粉焼きはかえしを使った絶妙な味付けと山椒、胡椒の香りが爽やかに鼻に抜けこれまた絶品。

鴨のそば粉焼き 2000円

『勢揃坂 蕎 ぎん清』鴨のそば粉焼き 2000円 定番から同店ならではの端正な逸品まで充実した蕎麦前

妥協することなく料理と向き合うご主人の手による蕎麦前はどれも味のバランスが抜群で、かつ酒との相性が良い。提供される器も女将のこだわりが垣間見られる美しさで、隙のない蕎麦前タイムにおぉと感動のため息が漏れてしまう。

ご主人の言葉通り蕎麦前だけで大満足してしまうが、蕎麦もまた旨い。端正な手打ち蕎麦はしっかりとしたコシと香りを楽しめるときた。完璧じゃないか! 蕎麦前から〆の蕎麦まで、夜こその味をぜひ堪能してほしい。

【蕎麦前の作法4】

「難しいことを考えず自分だけのコースを組み立てるように楽しんでほしい」と店主に言われ目から鱗。冷たいものから温かいものを頼むのが基本だが、その日の気分に合わせて蕎麦前オールスターを選ぶのもまた一興

『勢揃坂 蕎 ぎん清』

[住所]東京都渋谷区神宮前2-3-10 ヒルトップ神宮前1階
[電話]03-3479-1911
[営業時間]11時半〜14時(13時半LO)、18時〜21時半(20時半LO)
[休日]日・祝(水・土のランチ休み)
[交通]地下鉄銀座線ほか外苑前駅2a出口より徒歩7分
※年末は28日まで営業(年越し蕎麦のテイクアウトはなし)。年始は10日〜

『小松庵総本家 銀座』 @銀座

ワインでいただく“肴”な蕎麦

本当の意味で、蕎麦で酒を飲む、ということを私は同店で初めて体験した。大正11年創業の老舗が新しい蕎麦の楽しみ方として考案したのが「はじまりの蕎麦」だ。〆に対して食事の最初に繊細な蕎麦を味わってもらいたいと、水、塩、オリーブオイル、蕎麦ツユで食べ比べる2種類の蕎麦。

はじまりの蕎麦 1760円

『小松庵総本家 銀座』はじまりの蕎麦 1760円 同店の名物である蕎麦の前菜

さらにいぶし柿とオリーブオイルを使った白和え、あいち鴨の塩焼き、蕎麦粉のカナッペなどの季節の前菜がいただけるお得なメニューだ。小麦よりもさっくり食感の蕎麦パンのカナッペはもちろんのこと、この蕎麦が意外にも白ワインに合う。まずは水で食べて風味の違いを感じた後に、オリーブオイルと塩をつけるとイタリアンなつまみに大変身。

ほかに単品メニューであるサンマのオイルソースsobaも、皮目を炙り香ばしさを出してからコンフィしたサンマに蕎麦ツユを合わせて作ったソースが和えられていて酒を誘う味になっている。いやはや、まさか蕎麦が肴になってしまうとは。蕎麦の可能性、確実に広がっています。

【蕎麦前の作法5】

「実はワインも蕎麦前に合うんです」と教えてくれたのは店長の小松さん。旨みの濃い鴨やまろやかで深い味の蕎麦味噌に赤の合うのだ。こんな風に新しい組み合わせを試すのもいい。蕎麦前の楽しみ方は自由でいいのだ!

『小松庵総本家 銀座』

[住所]東京都中央区銀座5-7-6 ilivビル14階
[電話]03-6264-5109
[営業時間]11時〜16時(15時半LO)、17時〜22時(21時LO)、土・日は11時〜
[休日]不定休
[交通]地下鉄丸の内線ほか銀座駅A2出口から徒歩1分
※年末年始は休業予定(詳しくは店舗まで)

撮影/小澤晶子、取材/藤沢緑彩

※2022年12月号発売時点の情報です。

※全国での新型コロナウイルスの感染拡大等により、営業時間やメニュー等に変更が生じる可能性があるため、訪問の際は、事前に各お店に最新情報をご確認くださいますようお願いいたします。また、各自治体の情報をご参照の上、充分な感染症対策を実施し、適切なご利用をお願いいたします。

※写真や情報は当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。必ず事前にご確認の上ご利用ください。

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