おいしそうな音の正体は
「ザクッ! ザクッ!」。
突然、痛快な音が聞こえてきた。
隣の客が、蕎麦の上に乗った、天ぷらにかじりついた音である。隣客は、かき揚げそばを食べていた。
かき揚げを噛むごとに、音が響いて、僕に届く。のであった。にんじんと玉ねぎのかき揚げは、揚げたてではないのだが、衣が凛々しくて、しならずに、豪快な音を立てるのである。
ここ小伝馬町の『そば処 おか田』は天ぷらが人気で、終始賑わっている。
座って食べるので、正確には立ち食いではない。だが、「早い、安い、うまい」という立ち食い蕎麦の三原則を貫いている。
僕は「つけ天そば」に、三つ葉かき揚げを追加した。
しばらく隣客の音を聞いていると、
「はい、お待たせしましたぁ。つけ天そばにかき揚げ、三つ葉天でぇーす」。
奥さんの明るい声が店内に響く。
受け取ってみると、なんと「つけ天そば」のつけ汁は、かけ蕎麦の温かいツユであった。
普通は冷たいつけ汁につけて食べる、天ざるスタイルが多い。天ざるの冷たいつけ汁に冷えた天ぷらをつけるという、侘しさも捨てがたいが、これは天ぷらが生きる。が、温かいツユにつけた方が、断然旨いのである。