「おとなの週末」2022年12月号で掲載した伊勢うどん特集ですが、本誌で紹介した以外にも気になる伊勢うどん店がズラリ。前後編に分けてお届けします。後編は変わり伊勢うどんが登場!
画像ギャラリーさて、伊勢うどんを食べ歩く旅の後編。今回の旅の目的は、2泊3日間で、できるだけ多くの店に足を運んで本当においしい店を探すというもの。
連日食べ続けているおかげで、かつて苦手だった伊勢うどんがむしろ好きになってきた。とはいえ、3日目にもなると、飽きてしまうのも否めない。
旅の疲れを癒やす甘~い伊勢うどん?
「では、ちょっと口直しに行きましょう」と、加藤さんに案内されて到着したのは、伊勢神宮内宮の宇治橋から五十鈴川沿いに続く石畳の通り「おはらい町」。平日だというのに、多くの人々で賑わっている。江戸時代に一大ブームとなったおかげ参りもこんな感じだったのかと歴史に思いを馳せていると、
「ナガヤさん、ここです。ここ!」と加藤さんが店の前で手招きしている。そこは松阪牛をはじめ、厳選した和牛を使ったステーキ丼や牛丼が有名な『二光堂 寶来亭』。
いやいや、たしかに旨そうだし、旨いに違いないんだろうけど、ステーキで口直し??? それとも、松阪牛のステーキをドーンと豪快にのせた伊勢うどん? きっとそれだ! 加藤さんはここに何度も取材に来ているようで、
「例のアレ、お願いできますか?」と、何やら女将さんに注文している。ただ、この後も伊勢うどんを食べなきゃならないし、今ステーキを食べたら腹パンになってしまうかもしれない。そんなことを考えていたら、加藤さんが頼んだ「例のアレ」が目の前に運ばれた。それは筆者の予想のナナメ上をいくものだった。
伊勢うどんの上に冷たいバニラ味のソフトクリームをのせて、その上から伊勢うどんのたれときな粉をかけた「伊勢うどんソフト」(500円)だったのだ。
「要するに、伊勢うどんの存在は白玉と同じですよ。コシの強いうどんでは違和感があって無理でしょうが、やわやわの食感の伊勢うどんだからこそスイーツでも成立するんです」と、加藤さんは満面のドヤ顔。
たしかにソフトクリームであれば、口直しにぴったり。では、いざ実食! まずは、ソフトクリームと伊勢うどんのタレとの相性の良さに驚いた。甘さと辛さが見事に調和していて、きな粉の素朴な風味もアクセントになっている。
いちばん驚いたのは、やはり伊勢うどんとソフトクリームのマッチングである。加藤さんのおっしゃる通り、白玉のようなもっちりとした食感が楽しめる。また、伊勢うどんの上に直接ソフトクリームをのせると固くなってしまうため、間にコーンフレークを挟んでいるのもポイントだ。伊勢うどんのさらなる可能性を目の当たりにしたような気がする。
「皇大神宮別宮月讀宮の近くにある『つきよみ食堂』には、白玉や餅の代わりに伊勢うどんを入れたぜんざい『手打ちぜんざい』もありますよ。残念ながら、提供は12月からなので今は食べられませんが、なかなかおいしかったですよ。ほら」と、加藤さんはスマホで撮影した写真を見せてくれた。
カレーうどんもやわやわ麺が伊勢のスタイル
伊勢うどんソフトのおかげで口直しは完璧。しかし、甘いものの後は辛いものが食べたくなるのが人間の性ってもの。伊勢うどんのような甘辛い味ではなく、何かこう……。あっ、そうだ! 伊勢うどんを出す店はカレーうどんもやわやわ麺を使うのだろうか? 加藤さんに聞いてみたところ、
「伊勢うどんとコシのあるうどんの両方を出す店もあるので、その店によります。私がよく行く『起矢食堂』は、たしか伊勢うどんと同じ麺を使っていたはずです」とのこと。
ちなみに筆者が暮らす名古屋のカレーうどんは、濃厚なポタージュ状のツユとコシのある極太麺が特徴。ゆえにやわやわ麺のカレーうどんは想像もできない。東京のいわゆるカレー南蛮のようなツユの方が合うのではないか。
『起矢食堂』は、その昔日本の各方面から伊勢神宮への参拝道として整備された伊勢街道沿い。周りには住宅も多く、これまで訪れた店とはちょっと雰囲気が違う。観光客よりも地元の人々が気軽にお昼を食べに来るような感じ。実際、加藤さんも食べに行くとおっしゃっていたし。
ちょうどお昼時でもあったので、店内はほぼ満員だったものの、入店してすぐに席が空いて、滑り込むことができた。注文したのはもちろん「肉カレーうどん」(800円)。加藤さんも同じものを頼んだ。
待つこと約10分。おいしそうな香りとともに運ばれてきたのがこれ。写真からはわかりにくいかもしれないが、他の店よりも丼がひと回り大きい。つまり、他店で言う大盛がここの並盛ということになる。すごいボリュームだ。
「肉カレーうどん」というだけに、肉がたっぷり。ツユに隠れた麺を引っ張り出して、肉と一緒に食らう。あれ? このスパイシーな味わいは名古屋のカレーうどんと酷似している。でも、麺はやわやわ。ミスマッチと思いきや、そうでもない。濃厚なツユが思いきり麺に絡むのである。これは名古屋のカレーうどんとはまったくの別物。伊勢うどんのカレーうどんであると断言できる。
それにしても量が多い。食べても食べても減らない。季節はすっかり秋だというのに全身汗だくになりながらなんとか完食した。
今回、本誌で紹介したものも含めて6杯の伊勢うどんと伊勢うどんソフトを食べ歩いた。すっかり苦手意識はなくなり、今、こうして記事を書きながら、また食べたいと思うほど大好きになった。これもひとえによい店をアテンドしてくださった加藤さんのおかげである。加藤さん、ありがとうございました。読者のみなさまも伊勢神宮の参拝の折には伊勢うどんを食べて、良い年をお迎えください。
撮影・取材/永谷正樹
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