【渋谷で名店復活 蔵前でレモンサワー どっちもいいねん】
11月11日はポッキーの日、ではなく「立ち呑みの日」だそうだ。なんでそんな話かというと、昨秋の同日、渋谷『富士屋本店』で「日本立ち呑み協会」発足イベントをやるってニュースが入ってきたから。立ち呑みを日本の酒場文化として継承・普及・発展させようってイベントで、いいねえ。と、それもそうだが、アガったのは、2018年10月末に惜しまれつつ姿を消していた名店『富士屋本店』の“立ち呑み”が、復活するという話だったからだ。
というわけで、向かったのは渋谷桜丘『立呑 富士屋本店』。かつてビル地階の大きな変形ロの字カウンターだった店は、この度ちょっとした迷路のような奥行きある1階の店に。カウンター2本に、4名ほどで囲めるテーブルや、外飲みできるスペースもあり、すでに賑わっていた。男も女も老いも若きも、雑多な人が楽しそうに語らい、飲む。ふむふむ、これぞ!だ。
そんなDNAを継承しながら、もちろん令和版バージョンアップも果たしている。「ハムキャ別」や「なすみそ」など懐かしのメニューに加え、黒板には酒飲みのツボを押さえた品書きがずらり。何しろ肴が旨いのだ。昔からある自分で割る焼酎もあれば、ワインや日本酒も豊富になり、懐がますます深い。いやはやこれは……通わねばなるまい。
ハムキャ別 400円、瓶ビール(赤星) 490円、なすみそ 300円
さてお次は蔵前。近年古い物件をリノベしたカフェなども増え、何かと気になるエリアだが、そこに2020年にオープンした『イエロ』だ。中が覗ける大きなガラス戸の入り口がふたつ。こちらは一転ネオ系というか内装も明るく、スッと入りやすい。「人が出会う場を作りたい」が店主の願いらしく、あえて客席を狭くしているとも。
注目は12種類のレモンサワー。生口島・瀬戸田から取り寄せる無農薬レモンを使うのだがこれが強烈に爽やか。そしてベースに3種のスピリッツ、フレーバーにフレッシュ、塩、スパイシー、はちみつと色々で、常連さんはほぼ皆メガサイズ。つまみも店主の故郷・栃木の「いっこく野州どりのから揚げ」ほか、ぴったりなヤツが揃う。ほかにナチュラルワインや栃木の日本酒もあって、居心地のよさがヤバい。
HAKU×スパイシーレモンサワー 780円、栃木いっこく野州どりの白だしから揚げ 200円/1個
【男は黙って学大に向かい、大井町で明るく癒される】
所変わって学芸大学に向かう。駅徒歩1分の立地にいかにも昔ながらの姿で昨夏登場した『立呑み 鉄砲玉』だ。3坪に満たない空間で店主の仕事っぷりがよく見えるのもいい。今どき風などとは一線を画して潔いのだ。驚くのは、つまみのよさ。名物の「マグロ刺し」は生の本マグロにこだわって懇意の仲卸からその日のいいものを入れる。盛り合わせでなく単品で出すのも、ベストのタイミングで「ひと切れ目のおいしさ」を迷わず感じてほしいから。
マグロ刺し 980円
「浸し豆」は鰹と昆布の一番ダシに二晩かけて漬け、手間がかかっている。ほぼ自家製で既製品はなし。かといって提供速度も小気味よく、ホッピー同様“なか”だけおかわりできるドリンクも300円台から揃う。こりゃ飲むだろ。立呑み不毛の地とも言われていた学大に新しい風が吹いている。
最後は大井町。『SAMI』というワインスタンドの2号店として昨年12月に誕生した『stand LOTI』だ。テーマは「品のいい居心地の、上質なカジュアル」。確かに白を基調とした明るい空間や音楽も心地いいんだが、1番のピースは人だな。明るくて気さくな店主のチョンちゃんはじめスタッフの屈託のなさがすごくいいリズム感。で、「飽きないようにね」と日替わりの料理はサービス精神満載で立ち呑みレベルを軽く凌駕している。
湘南スウィートのトマト酎ハイ 500円、ホタテと金柑のカルパッチョ 630円
イタリアン出身で南米にルーツを持つ店長&シェフ・ておにいの料理も楽しいし、和も中華も韓国料理も。軽々と観念を飛び越えて、それにぴったりなジョージアの琥珀ワインもあればハイボールもあり。自然とお客さんの距離も近い。楽し〜いって言わずにはいられない!
撮影/貝塚隆(立呑 富士屋本店、立呑み 鉄砲玉、stand LOTI)、鵜澤昭彦(イエロ)、文/池田一郎
※2023年4月号発売時点の情報です。
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