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ドクターイエローといわれると、なんだかワクワクが止まらない。運行時間が非公開で、偶然によってしか遭遇できない新幹線は、いつしか目撃すれば「幸せになれる」なんて話すらある。そんなドクターイエローが引退するという話が聞こえてきている。なぜ引退するのだろうか?

運転時刻も公開されてはいない神出鬼没のドクターイエロー

ドクターイエロー

「ドクターイエロー」の愛称で有名な“黄色い新幹線”。神出鬼没で、いつ運転されるのかはもちろんのこと、運転時刻も公開されてはいない。東海道/山陽新幹線を利用する際、偶然駅で見かけて、「えっ? なに?? 今の黄色い新幹線!?」とちょっと驚くとともに、幻のドクターイエローを見ることができたことでワクワクしたという人も多いだろう。

そんなドクターイエローだが、東海道新幹線を運行するJR東海(東海旅客鉄道株式会社)は2025年1月をもって引退することを発表した。

ところでドクターイエローとはどのような車両なのだろう? どのような目的で運転されているのだろうか? そして、人気の車両なのになぜ引退することになったのだろうか? その秘密に迫る。

黄色い車体は新幹線のお医者さんの証なのです

ドクターイエロー

東海道/山陽新幹線の車体はホワイトにブルーのライン。開業当時の0系(団子っ鼻のあれ)はホワイトと言うよりもアイボリーだったけど、ま、新幹線と言えば白に青のラインと言うのが共通認識だ。

そんな新幹線車両にあって、鮮やかなレモンイエローの車体はひと際人目を惹く。

営業用車両とハッキリと区別をして、駅で待っている人に「この新幹線には乗れませんよ~」ということを明示するためのイエローなのだ。だから、「ひと際人目を惹く」ために、敢えて車体にイエローを纏っているのだ。

「新幹線電気軌道総合試験車」。これがドクターイエローの正式名称。鉄オタっぽく型式名で言えば「923形」となる。その正式名称が示すように、ドクターイエローは新幹線の線路の歪みや電線(架線)、信号システムなどの状態を「のぞみ」と同等の速度で走りながら検測し、データを集積、分析するための特殊な車両。いわば新幹線のお医者さん。だから「ドクターイエロー」と呼ばれているのだ。

ドクターイエローは7両編成だ。東海道新幹線は16両編成で統一されているので編成長は半分以下と短いが、この7両にはそれぞれの号車に重要な役割が割り振られている。3号車と5号車の屋根には出窓のような観測ドームが設置されていて、トップスピードで走るドクターイエローのパンタグラフや架線の状態を目視することができる。4号車には線路の歪みや変位をミリ単位で計測し、異常地点を記録する特殊な計測装置が搭載されている。

1日、約160本の営業列車が走る東海道新幹線。ドクターイエローはこの合間を縫って、営業列車のダイヤに影響を与えぬよう「のぞみ」と同等の運転ダイヤで走りながらこれらの検測データを記録していくのだ。

ドクターイエローが集積した検測データは直ちに分析され、保線センターに送られる。例えば線路の微妙な歪みや変位を記録したなら、保線工事の手配が行われ、その日の夜中の保線作業で修繕されるという具合だ。新幹線の安全運行は、ドクターイエローによって守られていると言っても過言ではない。

ドクターイエローはなぜ引退する? 今後新幹線の安全はどうやって守られる?

初代新幹線の0系。営業最高速度は長きにわたり210km/hだったが、後年220km/hに引き上げられた

そんな重要な任務を担ったドクターイエローだが、現在の923形が就役したのは2000年10月のこと。すでに24年が経とうとしている。当時は最新型だった700系をベースとしたドクターイエローの最高速度は270km/h。

2000年当時だとすでに300系「のぞみ」は走っていたが、最高速度220km/hの100系車両も現役だったため、270km/hで走れるドクターイエローは余裕の性能を誇っていた。

N700系新幹線は車体傾斜装置によりカーブに通過速度が引き上げられるとともに、最高速度がドクターイエローのベースとなった700系の270km/hに対し285km/hとなった

しかし現在、東海道新幹線はN700系シリーズに車両が統一されており、最高速度285km/hで営業運転されている。しかもN700系シリーズには車体傾斜装置が備えられ、カーブの通過速度が700系よりも引き上げられている。

つまり、700系をベースとしたドクターイエローでは「のぞみ」のダイヤを支障しないよう、合間を縫って走ることが難しくなってしまったのだ。しかも、就役から24年経って車体や機器の劣化も大きくなってきたという。車体や機器を修繕して、さらにN700Sと同等の走行性能を備える改造には多大なコストがかかり、現実的ではない。

では最新のN700Sをベースとした新型ドクターイエローを作ればいいのでは? と思うのだが、残念ながらJR東海ではドクターイエローの後継車を開発する計画はないと言う。

N700系をさらに進化させたN700Sが最新の新幹線車両だ。今後の増備車両の一部には、営業運転をしながらドクターイエローと同等以上の検測が可能な機器が搭載される

ドクターイエローが担ってきた重責、すなわち新幹線の安全はどうするのか?

もちろん心配はご無用だ。JR東海は2026年度以降増備するN700Sの一部編成に「営業車検測機能」と呼ばれる、現在のドクターイエローの検測機能と同等以上の高度な検測機能を搭載。通常の営業運転で走行をしながら検測データを集積し、保線作業の精度をより高めることになる。新幹線の安全は、よりハイレベルで守られることになるのだ。

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ドクターイエローの完全引退は2027年度 あと3年時間はある...
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梅木智晴
梅木智晴

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