シャリだけで酒が飲める。世田谷代田『鮨処 まる』 「ご飯でお酒を飲みたくなるのは寿司だけでしょう?」と店主の柴木さん。この道40年の熟練の指使いから1貫ずつ供される握りは、まさにその言葉通りの味わいだった。 味を支えるの…
画像ギャラリー家族で力を合わせ、あるいは仕入れに力を入れ、月に1~2度は通えそうな価格で楽しませてくれるのが町の寿司店。本当に嬉しい存在です。ここでは新しく発見したお店に過去の秀逸店を合わせて紹介します。
気負わず通える風情と値段。老舗の江戸前仕事に唸る『蛇の目鮨』@成城学園前
成城と言えば高級住宅地。そんな場所で暖簾を出す寿司屋はさぞかし……と身構えつつ入ってみれば、いい意味で肩透かしを食らった。
店内はカウンター席に小上がりのある昭和の町寿司そのまんまの風情。夜でも握りもチラシと庶民派だ。
豊洲と川崎の両方の市場で目利きしてくるネタの良さもさることながら、店で炊くカンピョウに、香りを残しつつふっくら煮た穴子、チラシのご飯の上で彩りを添えるおぼろまでもと、細やかな江戸前仕事の積み重ねが56年間、看板を支えてきたのは間違いない。
さらに二人三脚で切り盛りする、純一さんとお母さんのやりとりも“味”で、飾らない親子の会話に加われば、自分が一見だったことも忘れてしまう。
明朗会計、つまみも絶品。代々木八幡『おすし磯部』
外から覗いでみれば、カウンターでひとり酒盃を傾けている人にも、賑やかにテーブルを囲む人にも、お客の中には女性の姿が目立つ。
それは味もコスパも雰囲気も、欲張りを全て叶えてくれる店だから。品書きは明朗会計で1貫110円~。豊洲の他に、長崎の漁師から届くちょっと珍しい魚種を見つけるのも楽しみだ。
加えてつまみ、なのである。和食の経験もある店主が作る一品料理は気が利いていて、日本酒と合わせれば握りに行く前からえびす顔。
初めてなら「大将のお任せコース」(前日までに要予約)に身をゆだねてしまおう。
前菜、揚げ物、刺身に焼き物、さらに美しい姿の寿司10貫もついてこの値段は、コスパに厳しい客もきっと満足する。
ふわふわの鯵フライもどうぞ。永福町『鮨すえひろ』
前身は店主・名和さんの父が立ち上げ、50年以上この町で愛された「末廣鮨」。装いも新たに「鮨すえひろ」として第2章のスタートを切った。
リニューアルに合わせつまみも拡大。寿司屋ならではの新鮮な身を揚げた鯵フライはふわっふわ、大トロを串打ちしたねぎま焼きは炙るとさらに香りも旨みも膨らんでくる。
そして、いざ握りへ。
冷蔵庫から取り出したケースに並ぶのは、丁寧な仕込みを終えたピカピカのネタたち。昔から仲卸で働く人と人との繋がりを大事にしてきたという名和さんの言葉が腑に落ちるような鮮度と質だ。
先代から引き継いだ酸味も甘みもまろやかに立たせたシャリが、かつての「末廣鮨」の味を今に伝えている。
舌に吸い付くマグロ、玉子焼きにもこだわり。蒲田『健寿司』
席に座るとシミひとつない白木のカウンターに目を奪われた。長年手入れし続けた檜のそれは、なめらかで肌に当たる感覚も気持ちいい。
奥に控える冷蔵ケースにはネタが整然と並べられ、これだけでも実直な仕事ぶりが伝わってくるではないか。現在店を守るのが物腰も柔らかな2代目の光一さん。できるだけ天然の、それも近海物を選んで仕入れている。
歯応えのいい白身や、舌に吸い付くようなマグロとネタの良さは大前提として、3種類を用意する玉子焼きに、刺身のツマも手作り、さらに卓上に置く醤油だって、ひと晩で入れ替えてフレッシュな香りを大事にしている。
そんな目立たぬ細部まで惜しみなく技と手間を込めた、お手本のような町寿司だ。
シャリだけで酒が飲める。世田谷代田『鮨処 まる』
「ご飯でお酒を飲みたくなるのは寿司だけでしょう?」と店主の柴木さん。この道40年の熟練の指使いから1貫ずつ供される握りは、まさにその言葉通りの味わいだった。
味を支えるのが米酢と赤酢を同割で使ったシャリ。口に含めば酸味はシャープでありつつも、後からじわじわと舌を包むようなまろやかさもあり、米粒に沁みた塩もやや強めだ。
川崎の市場に足を運び、できる限り天然物で揃えた上質なネタと合わせれば、個性ある人肌のシャリが脂の甘みや旨み、繊細な風味を鮮やかに立たせてくれるのだ。
こんな寿司には冷酒よりもおだやかに甘みが膨らむぬる燗がよく似合う。珠玉の握りでゆるゆる酒盃を傾ける、そんな粋な過ごし方もいいだろう。
「マグロだけで満足」をいただく。千石『真寿司』
マグロファーストな寿司屋である。なんてったって、おまかせ握りの最初に赤身、中トロ、大トロの3貫が出てくるのだ。味の良さを伝えるため一番に食べてもらうのだそう。
そのマグロを頬張ると大海を泳いでいた頃の活きが伝わってくるような力強い味わいで、後からなめらかさとコクが広がる。
なんでこんなにおいしいの!? と店主に聞くと、「できる仕事をしているだけ」とさらりと言う。が、たとえば中トロは筋がない背の真ん中を買い、カットの仕方や大きさ、寝かせ方などに仕事が光る。
仕入れ値的にも仕事量的にもコストがかかっている。それがこの値段なのは、旨いと思ってもらうことを何より優先しているから。町寿司の心意気、食べて知るべし。
“足だけ”で絶品を仕入れる、幡ヶ谷『紋寿司』
いい店ってお客の雰囲気でわかるものだ。
ちょっと珍しい日本酒も取り揃える同店では、まず刺身や焼き物をつまみながら飲み始めて、握りを食べるのがお決まりのコース。と言っても握りは1貫から注文できて、しかも高級店顔負けのいい魚が揃っている。
「魚に愛情が伝わるから」と話す店主は注文による仕入れはせず、市場を歩き回ってベストな魚を探す。
弾力ある淡路島産のアジからとろりと甘い本マグロの脳天、引き締まった身に脂が乗った迷いガツオまで、食べるとつい「おいしい」が口をつく。と、この独り言に反応した他のお客と目があってお互い笑顔で会釈する。
そんな触れ合いにも心をほぐされ、ああいい店だったなあと思いながら帰るのだ。
『おとなの週末』2023年11月号より
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…つづく<東京のうなぎの名店6選 うなぎ好きの『おとなの週末』編集部がおススメ!>でも、編集部がおススメの絶品うなぎの店を紹介します。
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