ガラガラっと戸を開けたときに、すっと馴染めそうな寿司が好きだ。カウンターに腰を落ち着けて「さて、今日はなにをつまもうか」という瞬間を気負いなく愉しめる空気感。
ついでに言えば、店構えもお客もこなれた感じ。街場で続いているいい店にはそんな雰囲気がある。気軽につまむが仕事はしっかりされている。そう、コレコレっていう旨さに会いに行く。
娘が継いだ「寿司職人の父の味」
まず訪れたのは浅草、食通街にある『江戸前三松』だ。倒れる直前まで現役だった先代が立つこと約55年。現在は娘の奥隅由規子さんが跡を継ぐ。ご店主が大事にしていることを尋ねると返ってきた答えは”うちらしさ”だ。
「小さいころから父の味で育ってるから。お店が玄関で、お客様との雰囲気も知っている。父のスピリットを受け継ぐのは自分しかいないと思ったのでね」
そこで先代から変わらぬウリは「光りもの」と「穴子」だ。酸味が勝ちすぎずまろやかでさっぱりした小肌が旨い。ふわっとした穴子は、ツメもいい甘味を感じる塩もいい。
次は西浅草の『貴乃』である。落ち着いた店構えで、白木の一枚板のカウンター。鯔背がコンセプトという店主が握る姿のリズム感もいい。「ちょいとつまむ」ような感覚で気軽に食べてもらいたいという寿司は、小ぶりで端正。
少し硬めに炊かれたシャリが口でほどよくバラける感じ。気軽とは言ったが、しっかり江戸前の仕事をされているところも味わいたい。ほどよく馴れた白身の塩梅や、煮ハマグリなや煮アワビの食感、ほどける穴子……。カウンター越しに会話も楽しみながらそんな寿司をっていうのがいい。