■ 江戸っ子らしい「遊び心」が光る
例えばおすすめのひとつ「月見そば」。温かい蕎麦に玉子を落として汁をかけていく。そこに描かれているのは、卵黄の月であり、白身がくぐもらせる雲の表情であり、その下の海苔は夜空なのかもしれない。
商売繁盛の縁起物ともいう「おかめそば」なら、かまぼこのほっぺに、三つ葉のかんざし、松茸や島田湯葉で顔が描かれている。こちらは少し丸みのあるおダシと一緒に味わいながら、江戸っ子らしいそんな遊び心に想いをやるのも粋ってもんだ。
「素材の力を信じて、邪魔しないことが大切」(堀田さん)、そう話す傍で、今日も木樽の中でかえしが呼吸をして丸みを帯びている。「お客様が蕎麦を勢いよく啜る音や笑い声が、店の雰囲気を色づけてくれる」とも。ならばその風景の一端となって今日も蕎麦を楽しみたい。
…つづく「東京下町、うまい「絶品そば」ベスト5軒…具たっぷり、風情よし《上野・浅草橋・日暮里・谷中・本所吾妻橋》の老舗を大公開」では、あまたひしめくそば屋の中から、下町にエリアを絞り選りすぐりのお店を紹介します。
『おとなの週末』2022年12月号より(※本内容は発売当時のものです)