黄砂が飛ぶとノリがよく育つ
わたしは若いとき、石川県の能登半島を旅していました。春先の3月ごろだったと思います。2024年1月の令和6年能登半島地震で大きな被害を受けましたが、そのころ半島の北端の輪島は、朝市で有名でした。いろいろな海産物が売られていましたが、春先の目玉商品は「岩ノリ」です。黒く光っていて、香りもいいのです。わたしの家でも、ノリの養殖をしていましたから、ノリの良しあしがわかるのです。
「今年は黄砂の飛びがいいから、いいノリが成長してますよ。いかがですか」
と、売り子の女性が声をかけます。
「えっ、黄砂が飛ぶとなんでノリが育つのですか」
と質問してみました。黄砂はぜんそくになるとか、洗濯物が汚れるとか、体に悪いもののイメージが強いですよね。
「どうしてだかわからないけど、黄砂がくると、成長がよくなり、なによりノリの色がよくなるんですよ」
というのでした。
その意味がわかったのは、それから30年もたってからでした。黄砂の中に植物に必要な鉄分が含まれていることを知ったのです。
…つづく「宮城県・気仙沼のカキ、ホタテ、アワビ、ウニ「32億円分の水揚げ量」に影響…ロシア・中国・日本の「共同研究で判明」した新事実とは」では海の養分はどこから運ばれてくるか、その源流に迫ります。
連載『カキじいさん、世界へ行く!』第23回
構成/高木香織
●プロフィール
畠山重篤(はたけやま・しげあつ)
1943年、中国・上海生まれ。宮城県でカキ・ホタテの養殖業を営む。「牡蠣の森を慕う会」代表。1989年より「海は森の恋人」を合い言葉に植林活動を続ける。『漁師さんの森づくり』(講談社)で小学館児童出版文化賞・産経児童出版文化賞JR賞、『日本〈汽水〉紀行』(文藝春秋)で日本エッセイスト・クラブ賞、『鉄は魔法つかい:命と地球をはぐくむ「鉄」物語』(小学館)で産経児童出版文化賞産経新聞社賞を受賞。その他の著書に『森は海の恋人』(北斗出版)、『リアスの海辺から』『牡蠣礼讃』(ともに文藝春秋)などがある。2025年、逝去。






