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カキが旨い季節がやってきた。ジューシーなカキフライ、炊きたてのカキご飯、茹でたカキに甘味噌をつけて焼くカキ田楽もオツだ。カキ漁師は、海で採れたてのカキの殻からナイフで身を剥いて、海で洗ってそのまま生で食べるのが好みだという。

そんなカキ漁師の旅の本が出版された。カキじいさん、世界へ行く!には、三陸の気仙沼湾のカキ養殖業・畠山重篤さんの海外遍歴が記されている。

「カキをもっと知りたい!」と願う畠山さんは不思議な縁に引き寄せられるように海外へ出かけていく。フランス、スペイン、アメリカ、中国、オーストラリア、ロシア……。世界中の国々がこんなにもカキに魅せられていることに驚く。そして、それぞれの国のカキの食べ方も垂涎だ。これからあなたをカキの世界へ誘おう。

連載19回「津波ですべてを失った、宮城・気仙沼の漁師に「ルイ・ヴィトン社」から突然届いた「信じられないメール」の中身」にひきつづき、東日本大震災のカキ復興の手助けをしてくれたルイ・ヴィトン家を訪ねる旅である。どんな胸躍る出会いがあるのだろうか。

前回まで】
2011年の東日本大震災で、かきじいさんの住む舞根地区も甚大な被害を受けました。電気や水道が止まり、情報はポータブルラジオだけ。寒さと混乱の中、被災者たちは支え合いながら夜を過ごしました。翌朝、家々が流されてしまった光景を目の当たりにし、さらにかきじいさんは母の死にも直面します。しかし、そんななか、フランスの高級ブランド・ルイ・ヴィトン社から支援の申し出が届きます。じつはその背景に、フランスと日本の牡蠣養殖の深い絆がありました。

「おじいちゃん、魚がいる」

津波で全部船を流されてしまい、海に出ることはできませんでした。4月になって、三重県漁業協同組合連合会からの支援で、船外機のついた小さな船が届いたのです。みんな飛び上がって喜びました。

海に出てみました。でも、海を埋め尽くしていた、カキ養殖の筏が一台もありません。海はからっぽでした。焼けただれた鉄板の船が、あっちにも、こっちにも無残な姿をさらして座礁しています。海はどんより濁っていて、大量の油が流れていました。生き物の気配がまったく感じられないのです。
 
海が死んだのではないか、と思いました。ある学者が、黒く濁った海を差して、「毒の水が流れている」と言ったのです。毒の水では、カキも生きていけません。わたしは全身から力が抜けてしまい、しばらく家にとじこもってしまいました。

食物連鎖という言葉を知っていますか。食べものがなくなると、どんどん生き物が消えていくのです。あれほどいっぱいいたカモメが、めっきり少なくなっていました。

そんななか、希望は元気な孫たちです。4月末、海辺で遊んでいた、寛司と慎平が、息せき切って坂をあがってきました。

「おじいちゃん、魚がいる」

と言うのです。

「なに! ほんとうか」
 
ころびそうになりながら海辺にかけおりてみると、たしかに数匹の小魚が、水面を泳いでいます。少し見えるということは、その何十倍もいると、経験的に知っています。

「『毒の水』なんかじゃないんだ。水が澄んでくれば、もっと魚が見えてくるはずだ」

でも、わたしがもっとも気がかりだったのは、カキのえさである植物プランクトンがどうなっているか、ということでした。プランクトンを観察するには、プランクトンネットや顕微鏡が必要です。でも、みんな流されてしまっています。

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2人のお魚博士が海を調査
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高木 香織
高木 香織

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