奇跡の劇場「坊っちゃん劇場」で観劇も楽しもう
利楽&樹楽を訪れたなら、敷地内にある「坊っちゃん劇場」にも足を運んでみてほしい。「坊っちゃん」とは夏目漱石が明治39(1906)年に発表した小説『坊っちゃん』に由来する。その名前からは、地方の大衆演劇を想像するが、年間250回以上、オリジナルのミュージカル作品を上演し、「奇跡の劇場」と言われている。『坊っちゃん』発表100周年に合わせて2006(平成18年)に建設された。
東京などの大都市でなければ成り立たないとされていた劇場文化を、地方の、しかも知名度が高いとはいえない地域に根付かせることに成功した、きわめて稀有な劇場なのだ。
瀬戸内や四国の歴史、文化、偉人を題材にした作品を自主制作し、2025年で20年目。1作品を約1年間、ロングラン上演する。
2025年4月29日から上演されているのは第18作目の「新 鶴姫伝説〜鎧に白い花を〜」(2026年3月まで上演予定)。製作陣には、一流のスタッフが揃っている。脚本は、ディズニー映画『アナと雪の女王』(2013年)で主題歌「レット・イット・ゴー~ありのままで~」の日本語訳でも知られる高橋知伽江(ちかえ)さん。演出は、映画の深作欣二監督(1930~2003年)の長男で映画や舞台などを手掛ける深作健太さんだ。舞台美術は、劇団四季に長年在籍し、独立後はミュージカルやオペラの舞台美術家として活躍する土屋茂昭さんが務める。
舞台は約440年前の戦国時代、瀬戸内海の「大三島(おおみしま)」に鎮座する大山祇(おおやまづみ)神社。その神社の大宮司の娘・鶴姫が戦乱の世に民のために立ち上がり、平和を取り戻すまでの物語が描かれている。
大三島は、瀬戸内しまなみ海道(広島県尾道市と愛媛県今治市を結ぶ全長約60㎞の自動車専用道路)の間にある。大山祇神社は、全国に1万社もの分社を持ち、日本総鎮守と呼ばれる。
恋や友情、大切な人を戦で失った悲しみや慟哭—そうした心の揺れ動きに共感し、思わず涙があふれる場面も……。
「人の命はいつまであるか分からん。今したいことを今する」『もしも翼があるなら』のやさしいメロディーにのせて、「どう生きるか」を問うメッセージが来場者の胸に響く。
地方の劇場で、まさかこのような感動的な作品が上演されているとは思わなかった。「坊っちゃん劇場」の名誉館長は、2025年6月14日に91歳で惜しまれつつ逝去されたジェームス三木さん。「文化や芸術は東京だけでなく、地方に息づいてこそ本物になる」という信念のもと、こけら落とし公演の『坊っちゃん!』をはじめ『龍馬!』『正岡子規』など計4作品の脚本・演出を手掛けた。
チケットは通常料金が4800円、前売料金が4500円。チケット付きの宿泊プランもある。この劇場を訪れるために、旅の計画を立ててもいいくらいのクオリティだった。太古の昔の温泉に浸かり、瀬戸内の歴史に思いを馳せ、ゆかりの地へと足を延ばす旅をおすすめしたい。
【見奈良温泉】
元養鶏場の跡地に建つ複合商業施設「レスパスシティ」の敷地内に2000年に開業した温泉施設。泉質の異なる2本の源泉をもつ。
■ジュラシック・スパ&リゾート『見奈良天然温泉 利楽』『 くつろぎの宿 樹楽 』
[住所]愛媛県東温市見奈良1110
[電話]利楽:089-955‐1126 樹楽:089-955-1661
[泉質]ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉、ナトリウム‐塩化物泉
[交通]伊予鉄道見奈良駅から徒歩約8分、松山自動車道東温スマートICから車で約5分
文・写真/野添ちかこ
温泉と宿のライター、旅行作家。「心まであったかくする旅」をテーマに日々奔走中。「NIKKEIプラス1」(日本経済新聞土曜日版)に「湯の心旅」、「旅の手帖」(交通新聞社)に「会いに行きたい温泉宿」を連載中。著書に『旅行ライターになろう!』(青弓社)や『千葉の湯めぐり』(幹書房)。岐阜県中部山岳国立公園活性化プロジェクト顧問、熊野古道女子部理事。