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今、焼酎が熱い。特に香り系など個性的な味わいの揃う芋焼酎が、居酒屋で家庭でと広く楽しまれている。なぜおいしくなったのか?なぜ個性的な味わいが生まれるのか?その理由を探るべく、鹿児島県いちき串木野市の『白石酒造』を訪れた。焼酎蔵でも珍しい、ほぼすべてのさつまいもを自分たちで育て、仕込む“ドメーヌ蔵”だ。畑ごとの土壌の違いにもこだわり、無肥料、無農薬の自然農法で育てられたさつまいもから造られる『天狗櫻』には緻密で美しい味わいが満ちている。

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“より天然に近いもの”を育てて醸す『白石酒造』@いちき串木野市

畑に立つその姿は日に焼けて逞しく、それでいて笑顔はとてもやさしい。素朴で飾るところもない。それを見て、「あ、『天狗櫻』そのまんまじゃん」と思った。白石酒造5代目杜氏の白石貴史さんだ。

代表銘柄は「天狗櫻」。自分たちの手で芋を育て、基本その芋だけで焼酎を作る。ワインならばドメーヌと言える、稀有な焼酎蔵。しかも、無肥料、無農薬の自然農法だ。

『白石酒造』発酵は1つの甕に米麹もさつまいもも一緒に仕込む甕仕込みだ。酵母が自分のペースで発酵するように途中あまり混ぜない、通常2週間といわれる期間も30~40日と長く、黄麹主体でエキスのようなもろみが仕上がる

でもひと足飛びにそこに至ったわけではない。22年前蔵に戻ったとき、自分にできることは何だろうと自問した。養豚ならどんな環境で何を食べて育ったかが大切。では、さつまいもは?そんなことも考えて手探りで畑を始めた。

あるとき知人からもらった長芋を食べて涙が止まらなくなったことがあるという。自然農法で作られたもので、その素朴さにハッとした。「人を感動させるのは味の多さじゃないな」と気づいたという。

芋本来の力と土地を信じて、“より天然に近いもの”を育てようと決めたという。低カロリーな環境で、芋自身が餌を探して少しずつ育つことが大切。結果、収量は半分になったが、芋の繊維は繊細に、目が詰まったものになった。

『白石酒造』植え付けしてから約180日、早掘りはせずじっくり育てる。栽培した次の年は1年間何も植えずに畑を休ませるという

ところで天狗櫻のラベルには、それぞれに使用した芋が採れた畑の地区が記されている。10ヶ所の畑は粘土質や砂地など土壌に違いがあり、「混ぜなければ、土地の味が滲み出るし、それが価値だと思っている」からだ。

そして畑には紅、白、紫、オレンジと15品種もの芋が単独だったり、混植だったりで育てられている。ちなみにそれは育てやすさや、意図した味や香りを狙ってのものではない。それぞれの土地で大切に育てた芋は年によって表情も違う。だから白石さんは毎年それぞれの芋を見て、それに合わせて焼酎にするレシピを考えるのだという。

「自己表現ではなくて、さつまいもが言ってくれている、それを聞くんです」

そう語る白石さんは、そうしたさつまいものことがかわいくて仕方ない様子だ。

『白石酒造』芋は苗床から育てている。白芋とオレンジ芋、紅芋4種など、混植にしているものはこの時点で混植に

取材後いくつかの焼酎を試飲させていただいた。キンモクセイや果実の香り、きれいな酸味があったり、グラッパみたいだったり……。どれも緻密で、可憐で、美しいと思った。その味わいは音楽に似ている。ストレートや少しだけ加水して、大地の声に耳を澄ますように味わいたい。

『白石酒造』5代目杜氏の白石貴史さん。粘土質という「生福地区」の畑。粘土質は養分が多く豊かな味、砂地はきれいな味の中に少し旨みが残る傾向という
『白石酒造』
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『白石酒造』@鹿児島県いちき串木野市
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