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 2025年9月12日、東京都港区・ピアシス芝浦店にて「イノベーション先進地としての福島・浜通りの今」と題したトーク&交流イベントが開催された。東日本大震災から14年、復興の先にある“新しい日常”が生まれているものの、課題も残る。そしてその課題を乗り越えるには、人と人のつながりこそが鍵となる。常磐ものや地酒が彩る食の魅力も交え、浜通りの「いま」をお届けする。 

文、写真:おとなの週末Web編集部(アイキャッチ写真はKAGOMEがこのイベントに提供した「福島あかつき桃ジュース」(2025年ぶんは完売!!)で、めっちゃくちゃ美味しくてびっくりして思わず記者が撮影しました)

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浜通りは“挑戦が交差する場”へ

 東日本大震災と東京電力福島第一原発事故から14年。福島県・浜通りでは、復旧・復興のフェーズを越えて、「次の一歩」を踏み出すための動きが静かに、そして確実に広がっている。

 2025年9月12日に行われたトーク&交流イベント「イノベーション先進地としての福島・浜通りの今」は、その「輪」を映し出す場だった。

 このイベントを主催する「HAMADOORI CIRCLE PROJECT(浜通りサークル)」は、福島県・浜通り地域で活動する人々のつながりを可視化し、活動人口の輪を大きくしていくプロジェクト。

「復興」の文脈だけでなく、文化・産業・観光・スポーツなど多様なジャンルを“丸く”束ね、現地の熱量を外へ内へと循環させるのが狙いだ。

 公式サイトには、浜通りの魅力を発信し、助け合いながら輪を広げる趣旨が明快に記されている。さらに、対象エリアは避難指示区域を含む広域の15市町村に及び、官民のネットワークと連携して取り組みが進む。ここに「出会いが生まれる場」を継続的に用意する意思を読み取れる。 

HAMADOORI CIRCLE PROJECT公式サイト

 浜通りの現在を語るうえで見逃せないのが、福島県が掲げる“イノベーション先進地”の物語だ。震災と原発事故、風評被害という未曽有の複合災害を乗り越え、日本や世界の社会課題を解く先進地へ——という長期ビジョンのもと、ロボット・ドローン、エネルギー・環境、医療、農林水産など複数分野で、新技術の実装や産業集積の加速が図られている。

 施策の鍵は「地域の稼ぎ」「日々の暮らし」「担い手の拡大」。

 イノベーションの成果が住民の生活に届き、雇用と事業機会を生み、移住・関係人口を呼び込む——そんな循環が明確に描かれている。 

 この循環を前に進める原動力は、やはり“人”だ。

 今回のイベントは、地元の若手起業家と首都圏のクリエイター、二拠点で働くエンジニア、復興の初期からボランティアで通い続ける支援者など、多様な肩書の人たちが出会い、語り、繋ぐために用意された。

福島で活躍する人、東京で活躍する人、それらを繋いで支えようとする人、それぞれの出会いの場、語らいの場、イノベーションが生まれる場として今回のイベントが用意された。福島の食材を使った料理も提供され、大変美味しかったです

 テクノロジーの話題から、地域のお祭り、子育て環境、空き家活用まで、福島に拠点を持つ人も、持たない人もいて、多様な人たちが「何かが出来るのではないか」と集まり、持てるもの、出来ることを語り合った。

 浜通りの魅力を語るなら「食」を外すことはできない。だからこそ「おとなの週末」に、このイベントへ来ないかと声がかかった(ちゃんと参加費を払って参加しております)。

 常磐沖で水揚げされる「常磐もの」は、カレイやヒラメ、メヒカリなど海の幸の宝庫。地域に根付く日本酒、クラフトビール、ワインとともに楽しめば、復興の歩みと新しい風土を五感で味わえる。

 近年のイベントでも、グルメ出店や試飲の場が設けられ、人と人、地域と地域を“食”がゆるやかにつないでいる。おとなの週末Webの読者にこそすすめたいのは、トークイベントやツアーで「人の物語」に触れ、夕方に港町の店で常磐ものを肴に一杯、という旅の組み立て方だ。

 福島、海のものも山のものも、美味しいものがめちゃくちゃたくさんあるので、ぜひ秋の旅行先の候補に入れてほしい。

「サークル」という名のとおり、このプロジェクトは“輪”を大切にしている。単発のイベントで終わらせず、次の集い、次の連携へと続く接点を増やす設計が随所に見える。たとえば、各分野のプレイヤーを招くトーク、地域を巡るツアー、食とアートを絡めた催しなど、興味の入り口を複数用意することで参加者の層を厚くし、15市町村という広域エリアで横串のネットワークを育てていく。復興を“点”ではなく“面”に広げていくアプローチだ。 

 本イベントで登壇した東京大学大学院・開沼博准教授は、以下のように語ってくれた。

「被災地と言ってももう震災から14年たっています。現地でも、日常に戻っているから遠いことになってる人ももちろんいます。

 他方で、現場には今もさまざまな課題が残っています。その課題に対していろいろな人やモノやお金が投じられてきました。

 そういったいろいろなものを、ただ費用として、経費として消費してきた部分もあるのかもしれませんが、それをちゃんと、次の未来への投資にしなければならないと思っています。

 その時に大事なのが人のネットワークであるし、新しいものが生まれる空間です。そのためには、この浜通りサークルのような、人と人が繋がっていく”場”が不可欠だと思ってます。

 というのは、復興は、これまでみんなそれぞれの現場で動いていて、ネットワークが繋がっていなかったんですね。多くの人が福島に集まって、その中で非常にパワーがある人が生き残ってくるような状況だった。そして役割を終えた人は日常に戻っていく。

 それはそれで、”復興の現場というのは終わっていく”という意味ではいいんですけども、若い新しい世代も含めて繋がっていくということも福島で起こっていくべきだし、その具現化のひとつが、このサークルなんだと思います。」

トークイベントで司会を務める東京大学大学院・開沼博准教授(写真左端)。浜通りを盛り上げようとする若者たちを応援する空気に満ちたイベントだった。おと週Webも応援します

 復興の“結果”を語るだけでなく、次の10年を見据えて「場」と「人」を耕す。浜通りサークルが示すのは、そんな前向きな地域のつくり方でありました。

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編集局長T
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