ユーザーを安心させる安全装備
高い安全性の実現も初代エルグランドの大きな命題だったが、安心・安全に走るという点では前述のオールモード4×4がそれに相当する。そのほか日産がこだわったのが視界で、撥水ウィンドウシステムにより降雨時でも良好な視界を確保できたし、広角ドアミラーにより大きなボディながら死角の低減させていた。
衝突安全性能が重要視されるようになっていたこともあり、日産のゾーンボディコンセプト+サイドインパクトバーの採用、運転席&助手席エアバッグも採用。今では当たり前の安全装備も当時は当たり前ではなく、それが付加価値やアピールポイントにもなっていた。電子デバイスのような派手さはないが、初代エルグランドはLクラスの高級ミニバンとしてユーザーを安心させるだけの安全装備が用意されていた。
トヨタは物量作戦
トヨタは1995年に大型ミニバンのグランビアをデビューさせていた。3ナンバー専用のトヨタのフラッグシップミニバンで、ライバル不在だったこともあり堅調に販売。グランビアの全幅を狭めたハイエースレジアス(1997年)も登場させていた。しかし、初代エルグランドの登場で状況は一変し、エルグランドにユーザーを奪われてしまった。
トヨタはエルグランドに対抗するため、レジアスエースの兄弟車のツーリングハイエース(1999年)、さらにはグランビアの兄弟車のグランドハイエース(1999年)と物量作戦。エルグランド追撃のために4車種で攻勢をかけたが、エルグランドの牙城を切り崩せず。
トヨタは”目には目を歯には歯を”的な戦略によりライバルを追撃してきた歴史があるが、初代エルグランドは4車種攻勢でも追撃できなかった。それほど初代エルグランドの人気は絶大で、1代にしてブランドを構築した証だ。
業を煮やしたトヨタは2002年にアルファードを投入することになる。強い初代エルグランドがあったから、アルファードが生まれたのだ。もし4車種攻勢が成功していれば、単独車種での展開はなかったはずだ。
初代エルグランドは大ヒット
初代エルグランドの販売台数を年別に見ると、1997年:約4万5000台、1998年:約5万6000台、1999年約5万2000台、2000年約4万1000台、2001年約3万2000台、2002年約4万1000台(2代目との合算値)。コンスタントにハイレベルな販売を見せている。それが今では嘘のような存在感のなさ……。
次期型エルグランドのデザインは賛否あるが、今や世界最強のミニバンに君臨するアルファード/ヴェルファイアに対抗できるのか? 初代がヒットしたのはエルグランドにしかない魅力持った唯一無二の存在だったから。アルファード/ヴェルファイアの後追いではなく、独自のものがどれだけ盛り込んでいるかがポイント。2026年夏が今から楽しみだ。
【初代日産エルグランドX 2WD 7人乗り(4AT)主要諸元】
全長:4740mm
全幅:1775mm
全高:1945mm
ホイールベース:2900mm
車両重量:2070kg
エンジン:3274cc、直V6SOHC
最高出力:170ps/4800rpm
最大トルク:27.1kgm/2800rpm
価格:349万8000円
※1997年5月デビュー時スペック
【豆知識】
JMS2025でワールドプレミアとなった次期型エルグランド。ボディサイズは日産の実測値で全長4995×全幅1895×全高1975mm。パワーユニットは1.5L、直列3気筒ターボを発電専用とする100%モーター駆動の第3世代e-POWER。モーターとインバーターを一体化した5-in-1(日産が命名)によりシステムのダウンサイジングを実現。パワーについては未公表ながら、51.0kgmオーバーの最大トルクをマークするとアナウンスされている。駆動方式はFF(前輪駆動)と電動4WDのe-4ROCE。エクステリアデザインは賛否あるが、2026年夏にデビューをする大物に注目が集まっている。
市原信幸
1966年、広島県生まれのかに座。この世代の例にもれず小学生の時に池沢早人師(旧ペンネームは池沢さとし)先生の漫画『サーキットの狼』(『週刊少年ジャンプ』に1975~1979年連載)に端を発するスーパーカーブームを経験。ブームが去った後もクルマ濃度は薄まるどころか増すばかり。大学入学時に上京し、新卒で三推社(現講談社BECK)に入社。以後、30年近く『ベストカー』の編集に携わる。
写真/NISSAN、TOYOTA、ベストカー






















