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味の好み、製造、そして……襲いかかる試練に情熱で立ち向かう

業界初の挑戦的なプロジェクトは、おもに企画開発やツナ缶の製造を行う静岡・清水の本社工場、そして、サバ缶の製造を担う青森・八戸工場から選抜されたメンバーによってスタートした。

伊藤食品清水工場。あいこちゃんがお出迎え
伊藤食品清水工場。あいこちゃんがお出迎え
伊藤食品八戸工場。こちらもあいこちゃんがお出迎え……
伊藤食品八戸工場。こちらもあいこちゃんがお出迎え……

「さっそく、100種類の商品の企画出しが始まりました」と吉田さん。

まず決定したのが「ご当地味噌シリーズ」。「味噌そのもの」に着目した商品展開だ。

「味噌って地域ごとに全然味も香りも違いますよね。その個性をいかせたら面白いんじゃないかと。日本各地の味噌なら相当の数のラインナップもできますし(笑)」と吉田さん。

同じく開発にかかわった営業部営業課主任の望月真帆さんも「ご当地の味噌を使ったサバ缶なら、地元の方も喜んでくださるのではと思いました。お土産にもなりますよね」と続ける。

望月真帆さん。あいこちゃんと一緒に!
望月真帆さん。あいこちゃんと一緒に!

その結果、まずは「第一弾」として北海道、秋田、東京、京都、愛知、九州と6地域を代表する「ご当地味噌」シリーズ6缶が決定した。

ご当地味噌シリーズ。「北海道味噌(北海道編)」「秋田味噌(秋田編)」「江戸甘味噌(東京編)」「八丁味噌(名古屋編)」「西京味噌(京都編)」「九州麦味噌(九州編)」の全6種
ご当地味噌シリーズ。「北海道味噌(北海道編)」「秋田味噌(秋田編)」「江戸甘味噌(東京編)」「八丁味噌(名古屋編)」「西京味噌(京都編)」「九州麦味噌(九州編)」の全6種

さらに一歩進んでトッピングやアレンジを加えた「変化球サバ味噌煮缶」の開発にも挑戦することになった。とりあえず「ともかく味噌煮で思いつくかぎりの味付けを羅列し、できそうなものを試作していきました」と吉田さん。

作ってみたものの、「とんでもない仕上がりで2度と食べたくないものもあった」(吉田さん)らしいが、これぞ!!という商品に絞り込んだ。「柚子味噌煮」「酒粕味噌煮」「生姜味噌煮」「白胡麻味噌煮」「花椒」「カレー味噌煮」という「味噌ぐるめ」シリーズである。

味噌ぐるめシリーズ。「柚子味噌煮」「酒粕味噌煮」「生姜味噌煮」「白胡麻味噌煮」「花椒」「カレー味噌煮」の全6種
味噌ぐるめシリーズ。「柚子味噌煮」「酒粕味噌煮」「生姜味噌煮」「白胡麻味噌煮」「花椒」「カレー味噌煮」の全6種

そしていよいよ本格的に商品として製造を開始……というところでプロジェクトに数々の壁が立ちはだかった。

「清水と八戸のメンバーでは『味の好み』が違ったんです」と吉田さん。地域によって「味付けの濃さ」が異なることは誰もが知るところ。さらに辛みや甘みのバランスも「清水では全員イケると思ったのに、八戸では思い切り却下、といったケースも多くって」と吉田さん。「お手上げの時期もありました……」。

しかし、情熱を持ったプロフェッショナル集団に妥協はない。

味噌煮100計画の会議風景。メンバー一同、意見を戦わせる日々が続いた
味噌煮100計画の会議風景。メンバー一同、意見を戦わせる日々が続いた

ともかく打合せ、再度試作の繰り返し、全員が納得のいくものに仕上げた。

さらに立ちはだかった壁は「設備」

今回の商品には、これまで伊藤食品では使用していなかった食材が多々、必要だった。「たとえば花椒ラー油味噌煮という商品には当然ながら『ラー油』が使われています。でも、八戸工場には油を充填するラインがありませんでした」と吉田さん。

まさかのハード面の問題。どうしようもこうしようもない現実に直面した。しかし、メンバーはあきらめなかった。「ラー油のあるなしでおいしさが全然変わります。なしにするわけにはいかなかったんです」と望月さんが説明する。

ならば、ないものは作るしかない

八戸工場メンバーは立ち上がった。作ってしまったのだ。「油の充填ライン」を

「ラインを改良して、洗浄方法も見直して工場の仕組みを変えてしまいました」と吉田さん。

商品はなんとか完成に近づいたものの、最後の山場が待っていた。

今回の新商品は、業界的にありえない「12種類同時発売」。なぜかといえば「ミスが起こりやすいんです」と吉田さんが説明する。そもそも従来新商品といえば1種か2種の発売が規定ライン。

今回は数が多くて味が混ざるリスク、缶にラベル張りのパッケージなので、ラベルミスが起きるリスクなど、製造リスクがてんこもり! 不安きわまりない事態だったのだ。

しかし、挑戦者に「無理」という言葉はない。

リスク回避のためのさまざまな工夫を重ねて無事完成した

だが、まだ最大のハードルがあった。

「社長」である

「12種類!? 製造に手間がかかりすぎる! 非効率の極み!」

経営者であればしごくまっとうな意見である。しかし、メンバーは一丸となって、社長に訴え続けた。

「非効率かもしれない。爆発的に売れないかもしれない。でもお客様にサバ缶を通して新しい楽しみと喜びをお届けしたい」

100プロジェクトに向けて、メンバーの情熱はピークに達していた。会社が何と言おうと、わたしたちはこれをやる。

その熱意を受けて、社長は「根負け」

社長は完成したサバ缶を試食した。そしてつぶやいた。

「旨いな」

発売決定!! 思いはかなう。努力する人間を運命は裏切らない。道は必ず切り開ける。

もはや、『プロジェクトX』級。書いているわたしの気分も田口トモロヲ、BGMは中島みゆきである。

かくして、2025年9月1日、怒涛の12種類販売がスタートした

缶詰業界からは「12種類、一斉販売!? 信じられない、すごいと言われました」と望月さん。「よくやった」とライバルながらあっぱれの声が続出したらしい

サバファンからは話題騒然、あのあいこちゃんの豊富すぎるラインナップ! と購入者続出。あまりの人気に限定販売の予定が、急遽11月から「未来永劫(たぶん)販売」に変更となった

これほどまで好評を博した「サバ味噌煮缶」。次回は、12種類のサバ缶を一挙紹介するとともに、アレンジレシピを紹介する。お楽しみに!

■伊藤食品
https://www.ito-foods.co.jp/

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取材・撮影/池田陽子
全日本さば連合会広報担当 サバジェンヌ/薬膳アテンダント。サバを愛する消費者の集まりである「全日本さば連合会」(全さば連)の広報を担当。日本各地のサバ情報の発信、サバ商品のPR、商品開発等を行う。北京中医薬大学日本校を卒業、国際中医薬膳師資格を持ち、薬膳アテンダントとしても活動。水産庁「海の宝!水産女子の元気プロジェクト」認定メンバー。著書に『サバが好き!~旨すぎる国民的青魚のすべて』(山と渓谷社)、『ゆる薬膳。』(日本文芸社)など。全さば連HP:http://all38.com/

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池田 陽子
池田 陽子

池田 陽子

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