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喫茶店をめぐりながら地元にすうっと溶け込めるかな?

盛岡市はコーヒーの消費量で全国上位にランキングされるとか。誰もが行動圏に自分のお気に入りの一軒を持つほど、喫茶店文化が根付いているそうだ。

編集N氏が何度も訪れているという『光原社 可否館』に立ち寄った。盛岡を代表する喫茶店のひとつだ。深煎りのコーヒーを味わいながら、隣席の若き女性たちの会話を採集する(失礼します)。なるほど、どうやら地元。常連客の自然で落ち着いた振る舞いも、歴史ある名店の魅力だ。

夜は菅間さんおすすめのシブすぎる老舗酒場『中津川』へ。串カツに地酒「あさ開」の燗が沁みる。さすが羅針盤、間違いない場所を示してくれた。

翌朝、冷たく凛とした空気で目を覚ます。朝食は盛岡神子田(みこだ)朝市でと決めていた。年間300日以上、早朝から開催される全国でも珍しい朝市だ。気温は-4℃。風も強い。震えながらいただく郷土料理・ひっつみ汁がキョーレツに旨い。農家のおばあちゃんお手製の山形菜の漬物も買って市を堪能した。

『盛岡 神子田朝市』市中心部近くで開催される朝市

今日も今日とて喫茶店。1985年創業の『ねるどりっぷ珈琲 機屋(はたや)』のドアを開く。両親の古布と軽食喫茶の店を関基尋(もとひろ)さんが受け継ぎ32年になる。関さんは東京での大学時代にコーヒーの魅力に開眼。銀座や吉祥寺のお店に足繁く通って味を覚えた。

機屋では自分の五感のみに頼って厳選した豆を自家焙煎し、ネルドリップで淹れる。10年以上豆を寝かせたオールドコーヒーが充実しているのも個性的だ。

『ねるどりっぷ珈琲 機屋(はたや)』膨大な量のオールドコーヒーのストックを少しずつ提供する

店はまるでおもちゃ箱のよう。カウンターの背後にはコレクションのほんの一部というコーヒーカップがずらり。旅好きだったお母さんが集めた世界の置物を眺めるのも楽しい。トン、トン、トン。関さんが挽き立ての豆に少量のお湯を落とす音が聞こえてきた。湯気と共に立ち上がった香りは、飲む前からもう美味。

そして、関さんインスピレーションで選ばれたカップでゴクリ。旨みがじわっと広がり、心地よい含み香に遠い思い出のカギを開けられそうになる。棚にあった90年代の映画本でさらに記憶をくすぐり、ちょっと切なく、でも気持ちよくなって店を出た。なんだろ、この充足感。

絶品のコーヒーを飲んだら、途端に空腹だ。蕪木さんに教えてもらった和食店『くふや』へ行く。地場野菜の力強さ満点の玄米定食がしみじみ旨い。

盛岡を歩いていると、岩手出身の童話作家・宮沢賢治がいかに愛されているかが伝わってくる。市民は幼少から文学に親しみ、思索に耽る時間を大切にする。そんな土壌が喫茶文化を育んでいるのでは、と仮説が浮かぶ(機屋での思索の結果)。

盛岡に来たならまあコーヒーでも(賢治)

賢治の造語を冠する『クラムボン』もぜひ立ち寄りたい一軒だ。1980年に地元出身の高橋正明氏が開き、独学で焙煎を追求しながら店を人気店に育てた。高橋さんの他界後、娘の真菜さんがノウハウを忠実に守って店を切り盛りしている。

深煎りに特化した豆は注文が入ってからギューンとミルで挽き、容器をコツコツコンと独特のリズムで叩いて粉を集め、ネルドリップ。口当たりはまあるく、味わいは深い。と同時に絶えず豆購入の来客と、注文の電話がひっきりなし。そのざわめきも極上の音楽だ。

「旅というものは、時間の中に純粋に身を委ねるものだ」。ゆっくりと記憶のカギが開けられ、小説家・福永武彦の名言が浮かぶ。だから好きだよ、旅先の喫茶店。

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盛岡の朝はここからスタート!『盛岡 神子田朝市』
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『おとなの週末』Web編集部
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