今まで気が付かなかったこと
――前編では、北陸の被災地でボランティアをした経験が今回のスピンオフ「寿司職人『児島 渡』~寿エンパイア番外編~」に反映されたお話をお聞きしましたが、その後、何かご自身に変化はありましたか?
ええ、被災地から帰った後、普段の生活でも変化がありました。街中でもよく人を観察するようになったんです。電車でお年寄りに席を譲るようなことは今までもしていましたが、まだまだ気が付かなかったことがたくさんあったなあ、と。
――たとえば?
たとえば車椅子の人が止まっていると「どうしたんだろう? 段差の前にいるから困っているのかも?」と思って声をかけたり、白杖をついた人がいたらホームに転落しないよう見守ったり。思った以上に見過ごしてきたことに気が付きました。今回の番外編にはそういう目線が随所に入っていると思います。
番外編に込めた想い
――番外編のエピソード「早春」は、3部作という長編です。育児放棄された少年を児島が預かる話が描かれていますが、部下に「なぜ助けたのか」と聞かれ「助けてくれって声をあげてる奴を無視するようになったんじゃあ、この世は地獄だぜ」とつぶやくシーンが印象的でした。
先ほどのバスの話もそうですが、この話は自戒も込めて描きました。私が一番、読んでほしいエピソードです。「早春」には育児放棄をする若いお母さん、また別の話には拝金主義に溺れて荒んでしまう寿司職人や我慢ができない生意気な若者なども登場しますが、どこか生きていく過程で倫理観がずれてしまう人もいる。
児島はそうした人たちをただ成敗するのではなく、そうなってしまった理由も考える。産まれた時から悪人はいませんから。
――そうですね。
日本には今、倫理観が必要です。「何よりもお金が一番」の人が多くなってしまったし、効率を求めるあまり、まわりで困っている人がいても何もしない人が増えてしまったような気がします。
赤の他人であっても目の前で困っている人がいたら手助けをする。そんな社会が普通であってほしい。寿司漫画ではあるのですが、そうした自分の人生と社会への想いを込めてこの番外編を描きました。幅広い世代の方に手にとっていただけたらうれいしいです。
――お話、ありがとうございました。
「寿司職人『児島 渡』~寿エンパイア番外編~」小学館
https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098545445
取材/白石あづさ



