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「室町第」という名称をご存じだろうか。東西は室町通から烏丸通、南北は上立売通から今出川通に及ぶエリア。室町時代三代将軍・足利義満によって京都御所のすぐ北側に造営された邸宅。これぞ室町殿。

NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の中心的存在である北条氏を滅ぼし、政権を鎌倉から京都に移した室町幕府の肝となる場所だ。

そこで本題。実はこのエリアには京菓子の名店が多いということ。北山文化の創始者でもある足利義満は宇治茶を珍重し自ら茶園を開かせるなどして茶を愛し、八代将軍・義政は東山文化の中で村田珠光のわび茶を嗜好した。

また、千利休と関わりの深い豊臣秀吉もこの近くに邸宅を築き、利休の子孫が興した千家はこの地から茶の湯文化を発信し続けてきた。ここは茶の文化と縁が深い。そして茶文化に牽引されるように菓子の世界も発展。いつしか京菓子と呼ばれる文化が確立されることになる。と、まあ京菓子の名店がこの地に多いのも納得。

そこで、往時に想いを馳せつつの室町第周辺の京菓子散策に出かけてみた。伝統を受け継ぎながら追求を止めない技と味が待っている……その後編。

これから向かうのは堀川より東、室町第のあった周辺。油小路通の『樂美術館』へ。千利休と深いつながりがあり、茶の世界の名窯となった樂家450年の歴史が凝縮されている。一服のお茶に思いを馳せてひと休み。

小川通に出て北上。この通りこそ茶の湯の名家・三千家の庵が立つ通り。まずは小川通に東側からぶつかる武者小路通を入ると、すぐに武者小路千家の官休庵がある。

さらに小川通を北上し今出川通を越えて寺之内通に出たあたりが千家の本山。表千家の不審庵、そして裏千家の今日庵が佇むエリアだ。残念ながら、三千家ともに庵は一般公開していないので、あくまで門前を静かに眺めるくらいで。

樂家の伝統に触れる樂美術館。歴代の手本となる作品を中心に、茶道工芸美術品や関連の古文書などが展示されている。
武者小路千家官休庵は、初代・一翁宗守が仕官を辞した1667(寛文7)年に造立したと伝わる。現在の建物は1926(大正15)年の再建。
紀州徳川家より拝領したという表千家不審庵の門は格式高い武家の長屋門の威風堂々とした姿。
裏千家今日庵の兜門は数寄屋造りでひっそりと 侘びた風情。今日庵自体が国重要文化財、名勝史蹟に指定されている。
裏千家今日庵の兜門横には、千宗旦の碑が静かに佇む。

寺之内通に面し、小川通を正面に見据える『京菓子司 俵屋吉冨 小川店』は白壁が目印。喫茶『茶ろん たわらや』も併設する。

「うちは屋号ではなく「雲龍さん」って呼んでいただくことも多いんです」と語るのは、九代目店主の石原義清さん。相国寺の「雲龍図」から生まれた銘菓〈雲龍〉は、こし餡をそぼろにして蒸した生地に粒餡を乗せ、巻きすで巻き上げた雄々しい姿の棹菓子だ。

俵屋吉冨は雑穀商だった俵屋惣兵衛が江戸中期の1755(宝暦5)年に澤屋播磨御菓子司に奉公し、相続した頃から始まる。「祖父が店の顔となる菓子をつくり、祖父と父は京菓子の歴史を伝える資料館もつくった。さて私は……」と考えていたところに、裏千家ゆかりの土地で何かしてみないかという話が持ち上がり、茶人も一般の人も楽しめる喫茶スペースを2006年にオープン。

「材料や技術はもちろん大切ですが、時代にあった味を並べ続けなければいけない。次世代にバトンを渡すリレーみたいだなと感じています」。

現在は後継ぎの長男に百貨店で展開する「といろ」というブランドを任せ、京菓子の未来を担う若い感性を楽しく見守っている。

七代目・石原留次郎が相国寺からの依頼で考案した〈雲龍〉は、1棹からの販売だが、『茶ろん たわらや』では一切れからいただける。単品(385円・税込)、抹茶または煎茶セット(770円・税込)。
一般の人も抹茶が楽しめるよう、菓子とのセットメニューが充実。季節の上生菓子〈水陰〉は道明寺羹の夏らしい一品(1個385円・税込、抹茶または煎茶セット770円・税込)
和三盆、ふやき、押物切出、干琥珀、有平糖など、色とりどりの干菓子が並ぶショーケース。パリのチョコレート店を視察し、現代の菓子箪笥として製作。
白壁が美しい『京菓子司 俵屋吉冨 小川店』。右手の小路を入ると喫茶スペースの『茶ろん たわらや』がある。
通りを行き交う茶人たちが足をのばしてくつろげるサロンにもなるよう、椅子とテーブルの喫茶にしたという。
〈白玉宇治金時〉。地下水に砂糖を加えて凍らせた口当たりのいいかき氷は自信作(990円・税込)。小豆の風味を活かした餡と抹茶蜜が贅沢な味わいを生みだす。
烏丸通沿いの烏丸店には京菓子資料館も併設。こちらは先代と先々代が商売とは別に、京菓子文化を学べる場所として設立した。

京菓子では目で色や形を楽しむ、舌で感触と味を楽しむ、鼻でその香りを楽しむ、耳で菓子の銘を聞くという五感で楽しめるものとされる。菓銘からその情景を想い楽しむ文化。“季節を先取りする”という決まりには、都におけるおもてなしの精神が込められている。

千家の風情をたっぷりと感じた後は烏丸通方向に。烏丸通に面する大聖寺(非公開)は室町第の名残。このあたりこそが室町第があったエリアだ。時間に余裕があれば同志社大学今出川キャンパス隣の相国寺に立ち寄ってみてはいかがだろう。利休の孫、三千家の創始者である千宗旦に化けたといわれるキツネを祀った神社がある。

今出川通沿いにある足利将軍室町第址。花の御所とも称されここに幕府が置かれた。
相国寺にある宗旦稲荷は、茶の湯と縁の深い稲荷社。相国寺に住んでいたキツネが、千利休の孫・千宗旦に化けて茶会に現れたという伝説に由来する。

烏丸通を南下すると、そろそろ散策の終点。休憩もかねてお茶が飲みたい時間。烏丸通に面した『とらや 京都一条店』を横目に一条通に入ると、『虎屋菓寮 京都一条店』がある。

この場所は室町時代後期創業の『とらや』が江戸時代から商売を続けている地で、1628(寛永5)年より前には店を構えていたとか。記録によると御所の御用は後陽成天皇の在位中(1586年-1611年)から勤めているという。御所や公家はもちろん、徳川光圀や尾形光琳などの注文記録も残る。

「少し甘く、少し硬く、後味良く」が『とらや』の味の特徴といわれるが、一方で味や製法をかたくなに守るのではなく、いま喜ばれる味、さらにおいしくする製法を常に模索し続ける。そんな変わることを恐れない柔軟な姿勢が5世紀もの菓子づくりを支えてきたのだろう。

小倉羊羹〈夜の梅〉は切り口に見える小豆の粒を夜の闇に咲く梅に見立てた代表銘菓。(竹皮包羊羹1本3,024円・税込、中形羊羹1本1,512円・税込)
季節の生菓子、琥珀製〈池の夏〉は透明感あふれる琥珀製の水の中を泳ぐ金魚が愛らしい(1個583円・税込、冷煎茶セット1,353円・税込)。※2022年7月8日~7月31日まで
庭に面したテラス席では季節によって表情を変える木々の風情が楽しめる。
ゆったりと過ごせる店内には日本文化の関連書籍も。
烏丸通に面した『とらや 京都一条店』は販売のみの店。
京都限定商品の小形羊羹〈白味噌〉(292円・税込)。まろやかな味わいの白味噌羊羹は、『虎屋菓寮 京都一条店』のそばに店を構える老舗『本田味噌本店』の西京白味噌を使用している。
案内をしてくれた文化事業を担当する髙木優美子さん。
隣接する『虎屋 京都ギャラリー』で開催される企画展も担う。

茶の湯発祥ともいえるこの地で発展した京菓子を堪能する京都散策。伝統に裏打ちされた確かな味だからこそ一度は口にしておきたい。それを改めて感じる京菓子堪能となったが、今は夏。秋も冬も春も……その時々に風情と菓子があり。歴史を学び、味を探す。そんな旅の仕方も京都には似合う。

【店舗データ】

京菓子司 俵屋吉冨 小川店、茶ろん たわらや
住所/京都市上京区寺之内通小川西入ル宝鏡院東町592
電話/075-411-0114
営業時間/店舗10:00~18:00、喫茶10:00~16:00
定休日/毎週火曜
URL/https://kyogashi.co.jp/

とらや 京都一条店
住所/京都府京都市上京区烏丸通一条角広橋殿町415
電話/075-441-3111
営業時間/9:00~18:00
定休日/元日、毎月最終月曜(12月を除く)
URL/https://www.toraya-group.co.jp

虎屋菓寮 京都一条店
住所/京都府京都市上京区一条通烏丸西入広橋殿町400
電話/075-441-3113
営業時間/10:00〜18:00(ラストオーダー17:30)
定休日/元日、毎月最終月曜日(12月を除く)
URL/https://www.toraya-group.co.jp

編集/エディトリアルストア

取材・執筆/成田孝男、渡辺美帆

写真/児玉晴希

※情報は令和4年6月28日現在のものです。

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おとなの週末Web編集部
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