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つゆと薬味だけで食べるかけうどん。関西では素うどんとも呼ばれるが、愛知県三河地方では少し事情が異なる。お品書きにかけうどんはなく、その代わりに「にかけうどん」というメニューがあるのだ。

筆者は愛知県尾張地方在住だが、地元でも、取材で訪れた名古屋市内の店でも見たことがない。調べてみると、にかけうどんの発祥の地は、静岡県との境にある豊橋市のようだ。豊橋市内のうどん店には必ずと言ってよいほど用意していて、隣町の岡崎市や静岡県湖西市の一部の店でも見かける。

甘めのつゆに心がホッと和む

「いつ頃に生まれたのかなど詳しいことは文献が残っていないので、まったくわかりませんが、名古屋や東京から来られたお客さんが、かけうどんと思って注文して、思っていたのと違うと驚かれることもあります」

『東京庵本店』外観。創業は1884(明治17)年。当時は江戸から東京へと地名が変わってまだ間もない頃で、東京都国分寺市出身の創業者が故郷を思って『東京庵』と名付けたという
『東京庵本店』外観。創業は1884(明治17)年。当時は江戸から東京へと地名が変わってまだ間もない頃で、東京都国分寺市出身の創業者が故郷を思って『東京庵』と名付けたという

そう話すのは、豊橋市内にあるうどん店、東京庵本店の5代目店主で、愛知県麺類食堂生活衛生同業組合豊橋支部理事長の戸倉信一郎さんだ。

文献がないというのは、名古屋のきしめんと同様に、にかけうどんが大衆の中から生まれた料理であることを物語っている。

にかけうどん。やや甘めのつゆにもちもちの麺がよく合う
にかけうどん。やや甘めのつゆにもちもちの麺がよく合う

注文したにかけうどんのビジュアルを見て、思わず驚いた。麺の上にのるのは、カマボコと揚げ、青菜、花がつお。名古屋の人ならピンとくるだろうが、「かけ」のきしめんとほとんど同じなのである

「きしめんとの関係まではわかりませんが、にかけうどんという名前の由来は、麺の上に煮しめ(煮物)をかけるうどん、煮しめかけうどんからにかけうどんになったという説や、熱く煮たつゆ、または具をかける煮かけから転じた説、具が多く荷をかけたような荷かけ説などがあります」(戸倉さん)

『東京庵本店』の5代目店主、戸倉信一郎さん。戸倉さんは大阪生まれ、三重育ち。店を継ぐ前は、大学で教員として経営学を教えていたという。地元出身ではないからこそ、豊橋の食文化の面白さに気がついたという
『東京庵本店』の5代目店主、戸倉信一郎さん。戸倉さんは大阪生まれ、三重育ち。店を継ぐ前は、大学で教員として経営学を教えていたという。地元出身ではないからこそ、豊橋の食文化の面白さに気がついたという

麺は名古屋のうどんと同様に、噛んだときに歯をやさしく押し返すような、もっちりとした食感ダシもムロアジやサバ節、宗田鰹がベースで、味付けはやや甘め。キリッとした名古屋風とは大きく異なるが、これはこれで旨い。じんわりと広がる余韻に心がホッと和む。この味こそが、豊橋のスタンダードなのだ。

「豊橋は小麦の栽培が盛んで、明治時代には自家栽培した小麦を製麺所へ持っていくと、うどんにしてくれたり、『うどん券』と交換できたりしたそうです。つまり、日常生活の中にうどんが身近なものとして存在していたということです。にかけうどんは豊橋のソウルフードなのです」(戸倉さん)

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力強さを感じる赤つゆと上品な味わいの白つゆ
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永谷正樹
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