中落ち風にだまされがち……ホントのマグロの中落ちとは
『おとなの週末』の仕事をしている俺は、フリーのカメラマンだから実はいろいろな出版社の仕事をしている。
早大通り近くの事務所で某小○館発行のコミック『美味しんぼアラカルト』の表紙撮影のためのアイデアを「うんうん」言いながら考えていた時のこと、「ガチョーン!!」「ガチョ、ガチョーン!!」
次の撮影のお題が「マグロの中落ち」だったと、はたと気づき俺は零下45度の世界にいるかのごとく凍りついた。
豊洲市場に通う前の俺は、恥ずかしながら「中落ち」と「ネギトロ」の区別もつかなかったし「マグロ中落ち=脂肪たっぷり」のイメージだった。この理由はマグロのすき身に食用油などを混ぜ込んだものをじゃんじゃん食べていたせいだ。
実際の話、俺はこの「加工したマグロの中落ち風」も意外と好きなのだ(笑)。でも今回は⻤のように優しい薗田編集⻑が眼光を鋭くして俺の真後ろに鎮座し、撮影の完成画像を素晴らしく細かくチェックするのだからどうしても「混じりっけなし」の「マグロの中落ち」を用意しなければならないのは自然界の法則よりも必至だ。
マグロの中落ちは、魚を5枚おろしにしたあとの中骨の部分に残っている肉のことで、具体的に言えばマグロの骨と骨の隙間にある赤身だ。
マグロは断面を見るとわかる通り、皮目から背骨に行くほど身質は赤身になっていくのだ。だから中落ちはある意味「赤身の究極」である。問題は新鮮な中落ちはマグロを1匹解体しないことには手に入らないし、1匹から取れる量は背骨の裏表のごく少量、まさに希少部位なのだ。
「むむむむ〜っ」。俺は唸った。ビッグボスの厳しいチェックに耐えられる中落ちはどこにあるかと考えれば、それはおのずから日本最大、いや世界最大の魚マーケット・豊洲市場にしかないことは明らかだ。
俺はまず豊洲市場の生マグロ仲卸の『石司』(いしじ)を訪ねて若社⻑の貴(たか)さんに相談することにした。ちなみに市場の旦那衆にお願いごとをするとき、俺は極力電話ではお願いしない。「サシで勝負」の精神で店先に参上してお願いすることにしているのだ。