国内外のアーティスト2000人以上にインタビューした音楽評論家の岩田由記夫さんが、とっておきの秘話を交えて、昭和・平成・令和の「音楽の達人たち」の実像に迫ります。フォークシンガー、西岡たかしの最終回は、筆者によるベスト3曲の選出です。その前に、興味深いエピソードを―――。
洒落たステージ衣装
西岡たかしという人は何でも自分でやってしまう~出来てしまう人だ。出来ないことがあったとしても、自分に必要とあらばひたすら努力してものにしてしまう。ある時、ステージ衣装が派手ではないが、とても洒落ているのでどこで手に入れるか訊ねたことがある。西岡たかしは小柄で身長160cmくらいだ。ステージ衣装は特注していると思ったぼくだが、西岡たかしの答えは意外だった。
“ステージ衣装にしろ、普段着にしても自分で女ものを買ってきて直すんですよ。小柄だから女性のMサイズくらいが丁度良くて、それを男ものに仕立て直しています”とのことだった。そう言えば、西岡たかしは音楽のプロになる前は女ものの洋服のデザイナーだった。
五つの赤い風船及び西岡たかしの楽曲群の中から、3曲だけを選ぶのは難しい。彼の曲の多くは、ひたすら日常と同居している。誰のためのメッセージというのでなく、日常を語る中に真実や愛がある。大雑把にくくってしまうとそういうスタイルで、日本のミュージシャンの中ではかなり特異なスタイルと言える。
「血まみれの鳩」 ベトナム戦争の最中に作られたメッセージ・ソング
五つの赤い風船時代で好きな曲は「遠い世界に」であることはもちろんだが、あまりに知られた曲なので極私的3曲のその1は「血まみれの鳩」を選ぶ。ベトナム戦争の最中に作られたこの曲は、平和を愛する西岡たかしのメッセージ・ソングだ。
“偽りの平和の中で、あきらめ暮らすよりも、真(まこと)の平和創ろう”という箇所は、現代の日本にも通じる。50年以上前に作られた曲なのに、そのメッセージは古びていない。デビュー・アルバム『高田渡/五つの赤い風船』に収録されている。