紅茶といえばインドやスリランカが世界的な主産地ですが、近年、日本の緑茶名産地でも紅茶の造り手が続々と誕生し、じわりと和紅茶が注目されています。もちろん京都でも和紅茶、生まれています。
宇治茶ブランドの最高峰・和束町で紅茶に出合う
宇治ブランドの茶葉、その約4割を生産する京都府南部の相楽郡和束町。古代の遺跡や古い地名が随所に残る自然豊かな山間の町は山の斜面に茶畑が広がり、京都府の文化的景観にも指定されているところ。
この地で和束の茶葉を栽培する『京都和束紅茶』の杉本喜寿さんはお茶農家の三代目。
「もともとマツタケ採りをしていた山を戦後に祖父が切り開き、以来宇治茶の茶葉を生産してきました」
日本茶の場合、生産者が手掛けるのは製品になる前の「荒茶」の状態まで。それを宇治の茶問屋が買い取り、二次加工で製品に仕上げる仕組みです。
「今までは良い茶葉を育てれば生産者として生計が立てられましたが、年々厳しくなっていく実感があり、まずは安価に扱われる二番茶をなんとかしよう思ったのが紅茶づくりのきっかけです」
杉本さんが紅茶をつくり始めたのは2009年頃。すでに静岡の丸子紅茶や大分のきつき紅茶といった他地域に先人がおり、現地視察や自身の紅茶を見てもらいながら和束紅茶の品質をつくり上げていきます。
「緑茶はほぼオートメーションで荒茶に加工しますが、紅茶は手づくり。クラフト紅茶と名乗って、製品づくりの過程を楽しんでいます」
二番茶の加工から始まった紅茶づくりですが、現在は一番茶も紅茶に加工しています。
「和紅茶は雑味のないまろやかな味わいが特長。ファーストフラッシュは香り高い反面すっきりし過ぎているのでブレンドで調整しています。紅茶の製造はブレンダーでもあるんですよ」
お茶の名産地である和束町の地名を背負った「和束紅茶」として、品種の違いを味わっていただくために、シングルオリジン(単一農園・単一品種)の生産にこだわります。
「自分で製品まで手掛けてよくわかったのは、誰がどこでつくったものなのかなど、お客様は食の安全を重視していること。ですから農薬・化学肥料不使用で栽培していますが、紅茶は土の味に左右されるので有機肥料もいろいろと試行錯誤しています」
現在は急峻な斜面に新たな茶畑も開墾中。生産する紅茶の8割は飲食店やホテルで提供される業務用とOEM。「和束紅茶」の名前は知らなくても、京都で和紅茶を飲んだら、それは杉本さんのクラフト紅茶かもしれません。